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2012年6月21日

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長谷川克之 (はせがわかつゆき)

みずほ総合研究所 調査本部市場調査部長

上智大学法学部卒業後、1988年日本興業銀行(現みずほファイナンシャルグループ)入行。調査部調査役、みずほ総合研究所金融調査部主席研究員を経て現職。共著に『ソブリン・クライシス-欧州発金融危機を読む』(日本経済新聞出版社)など。

 もっとも、決定会合後の株高・円安も、そして3月中下旬以降の株安・円高も日銀の政策決定だけによるものではない。春先までは米国の景気回復期待が強まり、また、欧州債務懸念がやや一服していたことから、世界的に株価が堅調に推移した。逆に4月以降はスペインの財政・金融不安、フランスの大統領選挙やギリシャの総選挙への不透明感などから、株価が軟調に推移し、逃避通貨としての円買いが進むこととなった。

変化する中央銀行の
ビジネスモデル

 日銀がこれまでよりも踏み込んだ形でインフレの目標水準を提示し、その達成に向けた姿勢を示したことは素直に評価したい。ただし、日銀の「物価安定の目途」は、目標へのコミットメント、結果責任や説明責任等の点で、英国、カナダだけでなく、海外で広く普及している政策運営の枠組みとしての「インフレ目標」(世界では30弱の国が採用している)とは似て非なるものだ。

 だからといって、日銀が「インフレ目標」を明示的に採用する必要性は必ずしもない。デフレが続く日本で一定のインフレ率達成へのコミットメントを示すことには意味はあるが、そもそも「インフレ目標」が時代の変化に適応できていないからだ。

 「インフレ目標」は、マネーサプライや為替相場などをターゲットとする金融政策運営の失敗から、1990年代以降に採用されたものだ。その政策効果については国際的な実証研究でも評価は分かれているし、90年代から2000年代にかけて世界経済が大筋としてはグレートモデレーション(大いなる安定)と称される安定期にあったことも、「インフレ目標」に基づく政策運営を容易にした面もある。

 しかし、金融危機と欧州の債務危機後、欧米経済が構造的なバランスシート調整圧力に晒される中で、中央銀行に対する役割・期待は物価安定にとどまらず、重層的なものとなっている。金融システムの安定性強化に向けた取り組みがこれまで以上に重要になり、欧州では危機対応も喫緊の課題だ。財政赤字問題は欧州のみならず、先進国の共通問題であり、国債相場の安定のため金融政策の重要性がかつてなく高まっている。

 財政・国債管理政策や金融システム維持策と金融政策との境目が希薄になりつつあり、中央銀行が物価安定のみに専念できる時代ではない。

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