2024年4月18日(木)

オトナの教養 週末の一冊

2012年6月22日

 「生食用牛レバー、7月から販売禁止 違反すれば懲役刑も」(6月12日付け朝日)。「イオンが英テスコの国内117店を引き受けへ」(6月18日付け産経)。

 食の安全や流通にかかわるニュースが、日々流れては記憶の淵から消えていく。いまやその流れは、怒涛のごとく、と表現してもよいほど激しく、広く、そして深い。

 日々のニュースは、その流れから水面にひょいと顔を出したほんの一滴をすくい上げて見せているに過ぎない。いいかえれば、ニュースを見聞きしているだけでは、大河の底流でいま何が起きているのかをつかむのは、むずかしい。

「食」をめぐるニュースの底流へいざなう

 たとえば、生食用牛レバーの飲食店での提供禁止をめぐっては、「何を食べるかは個人の自由。被害をこうむっても自己責任だ」と反発する意見もある。

 食の安全性に関してどこまで国が規制すべきなのか、責任を負うべきは生産者か流通か消費者か、といった議論にとどまらず、そもそも「安全」とは何か、そして「食文化」や「自由と責任」といった哲学までが問われているのだ。

 にもかかわらず、食中毒の原因となるO(オー)157などの腸管出血性大腸菌が、なぜこれほどまでに大きな問題を引き起こすことになったのか、という底流までを知る人はどれだけいるだろうか。

 牛レバーにひそむリスクを考えるとき、グローバル化した食の巨大なサプライチェーンの裏側でいま何が起きているのかを見なければ、本質にたどり着くことはできまい。

「食システム」に目を向ける重要性

『食の終焉』 (ポール・ロバーツ、ダイヤモンド社)

 その意味で、「食」をめぐるニュースの底流へ読者をいざなうのが、本書である。

 著者ポール・ロバーツは『石油の終焉』(光文社)でエネルギー問題を扱い、注目を集めた米ワシントン州在住のジャーナリスト。経済、技術、環境の複雑な相互関係を追っている。

 著者自身がプロローグで述べているように、変わりゆく「食」の姿を伝える書物は、すでに数多く出版されている。食傷気味、という読者もいるだろう。とはいえ、「より大きく、グローバルな視点で、この問題を考え」たのが、これまでの書物とは異なる本書の特徴だ。


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