限界を露呈するFTA
今こそWTOの見直しを

多国間交渉で本格的な農政改革の実現を


白岩 宏 (しらいわ・ひろし)  国際食料農業貿易政策協議会元理事

東京農業大学客員教授、国際食料農業貿易政策協議会(IPC)会員、同元理事、元国際農業交流・食糧支援基金参与、元三井物産取締役、穀物貿易および穀物貿易会社経営の専門家、IPCを通じて世界的人脈を持っている。

変わる農業 変わらぬ農政

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(図-1)将来貿易制限の恐れがある施策の数
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 2001年に始まったドーハ・ラウンドの棚上げで、WTO(世界貿易機関)に真空地帯が生じている。その空白を埋めるものとして、2国間で締結する自由貿易協定(FTA)が急速に拡大し、すでにWTOに通告されたFTAは現在では200を越えた。しかし、このようなFTAの世界的拡散にも拘らず、貿易制限的、保護主義的施策が急増していると、欧州委員会やGTA(グローバル貿易アラート)報告が警告している。(図-1参照)

 指摘されているのは、スイスへの貿易差別的政策、ブラジルの対メキシコ自動車措置、中国の外国直接投資に関する新政策、EUの新政府調達制度提案などである。また、貿易相手国に失業などの負担を押しつけることによって自国の経済回復と安定を図ろうとする近隣窮乏化政策の導入が、2008年のリーマン・ショック以降全世界で増加している。WTOは一体何をしているのだろうか。イシ・シディキ米国通商代表部大使は、5月にワシントンで開催された国際食料農業貿易政策協議会(IPC)セミナーでWTOの監視機能が衰えていることを認めた。

貿易制限措置の大半を導入するG20諸国

 欧州委員会は、この状況はG20に責任があると指摘している。G20諸国が貿易制限措置の大半を導入しているからである。自由貿易協定の拡散が、世界の貿易阻害を解決するどころか、ブロック化のリスクを拡大している恐れが顕在化しつつある。

 とくに食料に関しては、世界の統治が機能していない。G20が、最貧国向け食料援助は人道的行為なので輸出規制措置(禁止など)から免除すべきだと提案したが、WTO閣僚会議は取り上げる意思がなかった。また、多数のWTOメンバー途上国が、中国、インドとのFTA交渉で輸出規制の適用を提案する先頭に立っている。これは「輸出規制を強化すべき」という国際世論に反する動きであるが、そもそもこの提案自体がWTO閣僚会議のテーブルに届いていなかったという。こうした現実が、国際的統治機能が不全に陥っていることを示している。

例外規定の多いFTA

 もともとFTAは基本的に大国間中心で、多くの途上国が疎外されるという問題を抱えている。WTO協定で保証されているすべての国への「最恵国待遇—MFN」が適用されないという問題は以前から指摘されてきた。4月の第13回国連貿易開発会議(UNCTAD)総会を前にして、関係者の間で、「FTAとの釣り合いのために、WTO枠内でプルーリラテラル協定(賛同する複数国間協定)をまず前進させることを模索すべきではないか」と提案する向きもある。

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「変わる農業 変わらぬ農政」

著者

白岩 宏(しらいわ・ひろし)

国際食料農業貿易政策協議会元理事

東京農業大学客員教授、国際食料農業貿易政策協議会(IPC)会員、同元理事、元国際農業交流・食糧支援基金参与、元三井物産取締役、穀物貿易および穀物貿易会社経営の専門家、IPCを通じて世界的人脈を持っている。

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