2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2012年7月20日

 では、欧州の能力向上にとって、NATOが最も適した枠組みなのだろうか。共同作戦の効果は、相互依存の度合い、すなわち主権の共有の程度に因る。その意味では、共通政策があり、安全保障・戦略上の目的を共有し、政治的統合の手続きが整ったEUの枠組みの方が適している。更に、NATOが安全保障しか扱わないのに対して、EUは国際政治の諸問題を幅広く扱う。

 アフガンからのNATO撤退は、NATOの将来に関して、主に3つの課題を提示する。それは、(1)NATOの性質と使命、(2)欧米の協力方法、(3)責任分担の問題、である。

 近い将来、欧州が米国と同水準で軍事的対応を行なうことはまずあり得ないだろう。「グローバル」NATOという米国の提案は、アフガンの経験を経た今、欧州にとっては拒否したいものである。NATOは、今後、欧州に軸足を戻すことになろう。同時に、リビアの経験によって、CDSP(欧州共通防衛安保政策)が未熟であることが分かった。欧州は、その責任と能力の向上を図り、NATOとEUが補完的関係になれるようにしなければならない。EUの枠組みにおいて、欧州は、より独立して、周辺地域の安全保障への役割を果たすべきだし、NATOの中では、欧州は、必要に応じて、米国の支援を得て、役割を果たせばよい。EU内に、独立した欧州司令部を設け、それがNATOにも統合され得る、「区別しながら分離されない」制度を創設する。そうすれば、欧州の指導力を向上させながら、役割分担をし、欧米双方の共通利益に応えることが出来よう、と論じています。

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 上記記事は、本年5月にシカゴで開催されたNATO首脳会議に合わせて書かれたものです。NATOのアジア太平洋への関与を提言する米国での論調とは異なり、本論説では、米国は、中東やアジア太平洋地域に回帰しても、そこでの欧州の実質的支援を期待してはいない、と述べられています。

 そして、米国がアジア太平洋へ回帰しているのに対し、欧州は、NATOの欧州回帰のムードにあることを示しています。NATOよりもEU中心に欧州安全保障の向上を図るということは、EUの方が組織的に欧州統合に向かっているということで、現況のユーロ危機の中で、EU統合の利点を見つめ直す、新しい視点と言えるかもしれません。もちろんその場合は、軍事だけではなく、経済も含めた統一欧州思考であり、その枠内で、軍事協力も考えるということになるでしょう。また、上記二人の筆者の立場からすると、EU的統一政策による英仏協力を示唆したものと読むことも出来るでしょう。


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