2024年4月20日(土)

ルポ・被災農家の「いま」

2012年7月18日

 顧客の多くは、このスタンスに共鳴し、布施さん夫婦が作る農産物を購入していたのだ。

 「『うちの野菜は安全で安心です』を売り文句にしていたら、そうしたお客様が大半を占めることになり、今回の原発事故で、確実に離れていっただろうと感じています。私は、消費者と生産者の信頼関係が積み重なっていくなかで、結果として『安全・安心』が消費者の心に生まれてくるものだと思うんです。たやすく言葉にしてはいけない言葉なんです、私にとっては」

定期宅配中止 地元はたった1件

 2011年3月19日、常陸太田市や東海村など茨城県内の5地点のホウレンソウから食品衛生法上の暫定規制値を超える放射性ヨウ素などが検出され、同県のホウレンソウやカキナが出荷停止となった。この事態を受けて、布施さんは素早く行動を起こした。露地の葉菜類の野菜の出荷をすべて取りやめたのだ。

 「検出された常陸太田市のホウレンソウは、うちの隣の畑からサンプルとして採取し、測定したものでした。出荷停止ではない野菜についても、お客様に『大丈夫です』と言い切るだけの根拠はありませんでしたから」

 その後の対応について、布施さんは「根菜(事故前の収穫したもの)の詰め込みセットで定期宅配を続ける」こと、そして「解約や休止」について遠慮なく申し出てほしい旨を伝えた。すると地元住民の1件、首都圏の住民の半分が「休止」を選んだ。特に目を見張るのが、地元住民の休止の少なさである。

築き上げてきた顧客との信頼関係が、定期宅配休止1件という異例の少なさにつながった

 実は、布施さんは地元住民に対して、宅配業者に委託せず、自分たちで野菜をトラックに積み宅配している。1998年の創業当時から、このスタイルにこだわり続けてきた。

 「1日かかることもありますが、やはりお客様に直接お会いし、会話し、野菜を手渡したいんです」と布施さん。里山循環型農業に共鳴した顧客と、こうしたやりとりを繰り返すなかで、ごく自然に信頼関係は築き上げられていった。それが「布施さんならば大丈夫」という気持ちとなり、結果として「休止は1件」という数字に表れたのだ。

首都圏の顧客もほとんどが戻ってきた

 一方、首都圏については、直接顔を会わせていないこともあり、約半分が「休止」を選択した。「当然起こりうる事態だと思った」と話す。


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