2024年4月17日(水)

Wedge REPORT

2012年7月24日

 高島さんが地域活動に取り組むようになったきっかけは、敦賀温泉病院で働いていたときの経験だ。「90年代のころ、外来に来る方は重度の方が多くて。その段階ではできることは少ないんです。もっと認知症の早い段階から、周囲の方々の理解・支援と適切な投薬があれば。病院で待つのではなくて、地域に出ていかないとあかん、と思いました」。

 高島さんの取り組みは進化を続ける。「認知症ではない。年のせい」と思い込む本人、家族を動かすのは隣近所だと、各集落内に5人程度からなるコミュニティ作りを仕掛けている。毎月のように会合を開いてもらうと、変化に気づいた周囲の人からすぐ連絡が入るようになった。

 「若狭町は他の町に比べ、重度化してから病院に来る人が圧倒的に少ない。町民への啓発の結果だ。入院患者が減れば経営は苦しくなるがそれがあるべき姿だと」(玉井院長)。

 「身近型」の先取り事例は、千葉県旭市の上野秀樹医師だ。「東京都立松沢病院で認知症病棟を受け持っていたとき、一般病院から転院してきた方の多くがちょっとした薬物療法で症状が改善した。それで他院への訪問診療ができればと。また、病院嫌いの高齢者も多いので、自宅へ訪問診療すれば在宅生活が続けられるのでは、と考えた」。09年から自宅や施設への訪問診療を手がけ、目立った効果が出ている。

 日本精神科病院協会の山崎学会長は厚労省の方針に懐疑的だ。「我々が主に診ているのは重度認知症患者。その実感からすると、できるだけ入院させないという方向性は、現場を知らない役人の絵空事に思える」。

多すぎる日本の精神科病床数(ベッド数)
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 日本の精神科病院の病床数は世界的にみて圧倒的に多い(右図参照)。 日本には明治以来、私宅監置という制度があった。精神障害者を親族が私宅内に閉じ込め、警察が管理するという世界にも類をみない制度だ。1950年の精神衛生法施行でこれを禁止する際、2つの悪弊が残った。

 1つは、精神科病院増設に民間資本を活用しようと「医師は他の診療科の3分の1、看護職員は3分の2でよい」という趣旨の「精神科特例」を設けたこと。もう1つは、本人の同意がなくても、保護者の同意で入院させることができる医療保護入院制度を創設したことだ。


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