2024年4月20日(土)

WEDGE REPORT

2020年9月29日

(REUTERS/AFLO)

 米最有力紙ニューヨーク・タイムズは9月27日、トランプ大統領の脱税疑惑を特ダネ報道、富裕な大統領が就任前の18年のうち11年間も所得税を納めず、2016年、17年の納税がわずか760ドル(8万円弱)だったことを暴露した。大統領は緊急会見で「フェイクニュース」と反論したが、この報道は同紙の“宣戦布告”に等しく、11月の選挙に重大な影響を与えるのは必至。

事業の破綻状況も明らかに

 同紙の調査チームはこれまでも大統領の脱税疑惑について報じてきたが、今回は11月3日の大統領選挙まで6週間を切った段階での報道。選挙に影響を与えかねないことを考えれば、確かな証拠とトランプ氏と徹底対決するという政治的意思が必要だ。同紙は記事の掲載に当たって、バケット編集局長自ら筆を振るい、報道の正当性を強調した。

 暴露された「事実」は衝撃的な内容だった。以下、ポイントを列挙してみよう。

  • トランプ氏は億万長者の贅沢な生活をしてきたが、同紙が調べた18年間のうち、11年間は所得税を納めていない。大統領に当選した2016年と就任1年目の17年に支払った納税額はわずか760ドルだった。
  • 同氏が収めた税金は18年間で総額9500万ドルだが、2010年から還付金として利子を含め7290万ドルを受け取った。内国歳入庁(IRS)は現在、この還付金支払いが適正だったか、脱税はなかったかを調査中で、仮に不当だったと判断されれば、同氏は1億ドル以上を支払わなければならない。
  • トランプ氏が税金の支払いを免れてきたのは同氏の所有するトランプ・オーガニゼーションの傘下企業が巨額の赤字を出していることが理由だ。特に南部フロリダ州のゴルフリゾートが12年から18年の間に1億6000万ドルの損失を出すなど経営するゴルフ場で3億ドルを超える赤字を計上した。
  • トランプ氏の利益相反行動も問題だ。同氏が好んで使うフロリダ州のマール・ア・ラーゴの別荘は大統領就任以来、新規会員権販売などで年間500万ドルも売り上げが増えた。マイアミのゴルフリゾートは屋根ふき業界が150万ドルも使ったが、その時期は、業界がホワイトハウスに事業に関する規制を緩和するよう求めていた時と一致する。
  • 同氏には、今後4年間のうちに返済期限の来る借入金が3億ドル以上ある。
  • 事業の経営悪化を申告して税金逃れをする一方、豪華な邸宅や自家用機など贅沢な暮らしを続け、テレビ出演用のヘアスタイルのため7万ドルも支出した。
  • 外国や利害関係者らから知られていた以上の献金を受け取っていた。テレビのリアリティ番組出演で4億2700万ドルの現金を受け取り、ゴルフ場やリゾートの買収資金に充てていた。

「税金はいっぱい払ってきた」とトランプ氏

 トランプ大統領は同紙が報道した直後に急きょ会見を開き、否定に追われた。大統領は「フェイクニュース」と報道を非難する一方、「所得税をいっぱい払ってきた」と強調。IRSの監査が完了したら、申告書を公表すると述べた。だが、大統領はこれまでもこの約束を繰り返してきたが、果たされてはいない。

 歴代大統領は利益相反などの疑惑を払拭するため、納税申告書を開示することが慣例となってきた。しかし、トランプ氏だけが開示を拒否し、これに訴えが起こされてきた。最高裁は今年7月、大統領の免責特権を盾にして開示を拒否したトランプ氏の主張を退けて下級審に差し戻したが、同氏は開示を拒否する新たな裁判を起こし、知られたくない事実があるとの疑惑を生んでいた。

 民主党下院議員の1人はトランプ大統領のビジネスが巨額損失を出してうまくいっていないとの報道について、大統領の成功した実業家という物語とは全く逆で、「トランプはだましと不正をする世界最悪のビジネスマンである」ことを証明している、と指摘した。別の民主党議員は大統領がIRSに圧力を掛けることを懸念していると語っている。


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