2024年4月19日(金)

立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2020年10月20日

 どっちが勝つか。世界が注目する米大統領選挙は投票日まで2週間を切った。各種の世論調査をみる限り、支持率ではバイデンがトランプを大きくリードしている。大手メディアもバイデン優位を報じている。ただ、世論調査があてにならないという説もあって、情報が錯綜している。私は、トランプの勝ち、場合によっては圧勝とみている。なぜと聞かれたら、神様の采配だと答えたい。

(REUTERS/AFLO)

誰を選ぶかよりも、何を選ぶかだ

 結論から言おう――。

 大統領選挙といえば、誰を選ぶかだが、今回はちょっと違う。誰(Who)を選ぶよりも、何(What)を選ぶかである。トランプかバイデンかでもなければ、共和党か民主党かでもない。どんな生き方(What)を選ぶかであって、どうしても「Who」というなら、それは有権者自分自身にほかならない。つまり、主体の国民が客体の候補者を選ぶという「Who-Who」の関係ではない。有権者が自分自身との対話で自分自身の生き方(What)を選ぶことである。

 遡って2016年当時、ワシントンの政治に無縁だった素人トランプがなぜ大統領に選ばれたのか。その大きな理由は逆説的だが、素人だったから、選ばれたのではないかと思う。ワシントンの政治にどっぷり何十年も浸かっていたプロ政治家なら、何かしらの利権が絡んでいる人がほとんどだ。トランプはそうではない。素人だったから、インナーサークルに所属せず、しがらみがない。だから、ディープステートにメスを入れられたのである。

 もう1つ重要なことだが、彼はお金持ちだ。大富豪だ。仮に政治の世界で失敗しても、路頭に迷うことはない。資産で数百年は食っていけるだろうから、生活の心配はまったくない。政治を生業とする「政治屋」とはわけが違う。

 お金に困らないものの、もっと多くのお金が欲しいというのが凡人のお金持ちだ。トランプはどうやら違う。彼はお金よりも、歴史を名を残すことを渇望している。その「脱凡人」的なところはいささか神々しさを漂わせる。彼自身が「私は選ばれし者(the chosen one)」と堂々と語るのも決して無根拠とはいえない。本稿の冒頭に「神様の采配」と述べた理由もこの辺に由来する。

エスタブリッシュメントと社会底辺の乖離

 トランプはいわゆる「エスタブリッシュメント」(社会的に確立した体制・制度、支配階級・上流階級)の層に属している。エスタブリッシュメント同士には利益争奪のための戦いがあっても、エスタブリッシュメントそのものを構造的に切り崩そうとする破壊行為は稀有だ。トランプはいささか反逆者にみえる。

 階級や階層の話になると、一般的に共和党がエスタブリッシュメントの政党と捉えられる一方、民主党の支持基盤は下層階級から構成されるイメージが強い。しかし、実際は今、両党の支持基盤が逆転しているようにみえる。なぜだろうか。

 いざ権力が手に入れば、下層階級や大衆から離れる。民主党もエスタブリッシュメントで固まり、既得権益層がインナーサークルを作る。詰まるところ、人間の欲望が丸出しになったところ、民主党も共和党も、左も右も変わらない。どんな社会においても、結局のところ、権力の格差と経済的格差を伴うエスタブリッシュメントと下層階級・社会底辺の乖離が拡大し、対立にまで発展する。中国共産党も好例だ。政権奪取までは、民主や自由を声高に唱えたが、いざ政権を手中にすると、理念を捨て、特権階級化し、独裁支配を強化する一方である。

 トランプは、エスタブリッシュメントに属しながらも、エスタブリッシュメントという概念それ自体を否定しているわけではない。ただ、そうなるための手段、蓄財の手段はきちんとしたルールに従わなければならないと主張し、ルールの歪みを排除しようとしたのである。

 民主国家の米国にいながらも、有利な立場や権力、地位を利用し、中国共産党の不正な利益提供を手中にし、エスタブリッシュメントに成り上がったり、富を膨らませたりする輩、いわゆるディープステートは容認できない。それらを一掃すべく、「ドレイン・ザ・スワンプ」(参考:『米台国交回復決議案可決、国民党の「変節」と「赤狩り」時代の到来』)キャンペーンが必要だとしている。

 米国社会の社会主義的な左傾化が指摘されてきたが、純粋な政治的理念としてのリベラル左翼は思想の自由として容認されるべきだが、現状はそう簡単ではない。中国共産党の浸透・侵食は決して単なる政治的理念や信条、立場の選択にとどまらない。それが自由民主主義国家の固有ルールを破壊し、悪の新秩序を作り上げようとしている。実力で市場の競争を勝ち抜いてエスタブリッシュメントの仲間入りするには問題ないが、独裁政権と不正に結託して、権力で私腹をこやして悪の蓄財をすることは許されない。ディープステート問題の本質はここにある。

 社会主義の侵食を受け、米国社会は変質しつつある。米国民も薄々と感じていた。しかし、この変化を多くの主流メディアが読めていない。あるいは、知りつつも知らん振りしたり、これを隠蔽したり、捻じ曲げたりしてきた。一部のメディアは自らこのシステムに便乗し、インナーサークル入りを果たした。エスタブリッシュメントに成り上がった彼たちは洗脳工作に加わり、国民の覚醒を恐れた。この利益構造を守ろうと懸命だった。

 グローバリゼーションという美名を作り上げ、地球の隅々まで浸透させたのもメディア。米国のような先進国から仕事を大量に中国などの海外へもっていった。安いコストを追求し、賃金を低く抑え、ブラック企業が増殖した。中産階級が希釈され、社会の底辺が広がった。大企業がこぞって中国に殺到し、中国共産党と結託して中国の廉価労働力を搾取し、利益を山分けした。

 グローバリゼーションの美名の下で、エスタブリッシュメントと社会の下層・底辺の乖離や対立が拡大する一方だ。既得権益をがんじがらめに守るためにも、エスタブリッシュメントは中国共産党政権の代理人となり、いわゆる対中「友好関係」を守ろうとした。このエスタブリッシュメントは政界だけでなく、学界やメディア、民間企業、様々な団体組織にまで及び、社会構造のピラミッドの上層部を形成した。


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