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2012年8月10日

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磯山友幸 (いそやま・ともゆき)

経済ジャーナリスト

1962年東京生まれ。1987年早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年3月末で退社、独立。現在、経済政策を中心に政・財・官を幅広く取材、各種メディアに執筆するほか、講演やテレビ出演、勉強会の主宰など幅広く活躍している。オフィシャルHP(http://isoyamatomoyuki.com/)

著書に『2022年、「働き方」はこうなる』(PHPビジネス新書)、『理と情の狭間 大塚家具から考えるコーポレートガバナンス』(日経BP)、『国際会計基準戦争 完結編』(日系BP)、『ブランド王国スイスの秘密』(日経BP)など。共著に『オリンパス症候群 自壊する「日本型」株式会社』(平凡社)、『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。

早稲田大学政治経済学術院(大学院)非常勤講師、上智大学非常勤講師。ボーイスカウト日本連盟理事。静岡県ふじのくにづくりリーディングアドバイザーも務める。

日経ビジネスオンライン(日経BP)、現代ビジネス(講談社)、フォーサイト(新潮社)、月刊 WEDGE(ウェッジ)、月刊 エルネオス(エルネオス出版)、フジサンケイビジネスアイ(産経新聞社)などに連載コラムなどを持ち、定期執筆している。

 日本は、LNG消費量の世界全体の4割を占める最大の需要国だ。本来ならば最大需要家としての「バイイング・パワー」があるはずなのに、なぜ日本は価格決定権を握れなかったのか。また、政府が進めようとしている国際交渉での価格引き下げ、という戦略は成果を上げるのか。

 日本が価格決定権を握れない最大の原因は「市場」を持たないことである。もともと市場は需要のあるところにできるのが普通だ。伝統的な朝市が教会前の広場に立つのを考えれば分かる。ニンジンやジャガイモを作る郊外の畑に市が立つのではなく、買い手が集まる街の中心に市場ができる。

 日本は世界有数の商品(コモディティ)需要国である。にもかかわらず、現在、日本の商品市場は壊滅状態だ。工業品を扱う東京工業品取引所や農産品を売買する東京穀物商品取引所は売買高の減少で青息吐息だ。ゴム取引などかつては東京が世界の中心相場だったものがいくつもある。ところが、今では総合商社など売買の主役たちはまったくと言っていいほど日本の市場では取引しない。シカゴなどで取引しているのだ。

 世界の原油価格はニューヨークで決まる。売買の指標銘柄であるWTIはウエスト・テキサス・インターミディエイトと呼ばれる原油で、実際の産出量は1日100万に満たない少量だが、先物として1日1億バレル以上が取引されている。かつては産油国の王族の胸三寸や、OPEC(石油輸出国機構)などの会議で価格が決まっていた時代もある。だが、現在は、先物市場のボリューム拡大によって「市場」で決まっている。逆の言い方をすれば、価格決定権を供給者である産油国から需要家である米国が奪取した、と見ることもできるのだ。

 なぜ、日本は需要家でありながら、市場を持てないのか。これはひとえに政府の無策からきている。霞が関の官僚は「市場」が嫌いなのだ。自分たちがコントロールできない「市場」を作ることを本能的に忌避する。今回「戦略」として打ち出したように国家間の連携や交渉となれば、主役は自分たち官僚である。

民主党唯一の市場改革策

 注目されていないが、今国会に、いわゆる「総合取引所法案」が提出されている。工業品の取引所は経済産業省、農産品は農林水産省、株式など金融商品は金融庁と、バラバラに分かれていた規制・監督権限を一本化し、垣根を越えた取引所の統合を促進しようという法案だ。金融行政にまったく無関心な民主党政府が唯一出した市場改革策といって良い。

 その肝は、何とかまだ命脈を保っている証券取引所に、商品の売買を認め、日本に商品市場を復活させることにある。ところが霞が関の抵抗はまだ続いている。各取引所には所管官庁の事務次官OBなどが天下っているのだが、そのポストを守ることに躍起になっているのだ。「市場の隆盛を犠牲にしてまで天下り死守にこだわっている」と経済産業省の官僚OBも批判する。

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