安保激変

2012年8月14日

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小谷哲男 (こたに・てつお)

日本国際問題研究所 主任研究員

1973年生まれ。同志社大学大学院法学研究科博士課程満期退学。ヴァンダービルト大学日米関係協力センター客員研究員、岡崎研究所特別研究員等を歴任。専門は日米同盟と海洋安全保障。法政大学非常勤講師及び平和・安全保障研究所・安全保障研究所研究委員を兼務。中公新書より海洋安全保障に関する処女作を出版準備中。

 李大統領は就任当初「未来志向の日韓関係」を掲げていたが、大統領選挙では全有権者の30%という極めて低い支持しか集められず、2008年に就任した時点でその政権基盤はすでに脆弱だった。李大統領の下で保守陣営が民主化陣営から10年ぶりに政権を取り戻せたのは、何よりも韓国国民の盧武鉉前政権に対する失望の反映であり、国民から積極的な支持を得たからではなかったのだ。

 しかも、李大統領は「経済大統領」を自認しながらも世界金融危機に巻き込まれ、経済面でも国民の期待に応えることができなかった。次第に韓国国民は保守政権によって政治的自由が制限され、経済的不平等は拡大していると考えるようになった。09年5月に家族が金銭問題で訴追された盧武鉉前大統領が自殺すると、政権の過度の捜査が自殺に追い込んだと民主化陣営側は反李明博連合を組んで政権批判を強めた。

 こうして、李大統領は野党連合からの強い批判と国民からの低い支持率に苦しむようになった。そこに、大統領の実兄と側近が金銭問題で逮捕され、政権は風前の灯火となってきた。だからこそ、竹島問題で対日強硬姿勢を示して、支持率の回復を狙ったのだろう。

強硬な反日派・盧武鉉大統領でさえ自制した竹島訪問

 このように、李大統領の竹島訪問は(森本敏防衛大臣が当初述べたように)本質的には韓国の国内政治上の要請であった。「反日カード」は韓国国内政治の道具になっているのだ。

 もちろん、日本が領有権をめぐって中国やロシアに対して弱腰の姿勢を維持していることも影響しただろう。韓国では、日本との政治関係を悪化させても、経済・文化面での交流には影響がないと分析する研究者が多い。

 だが、強硬な反日派として知られた盧武鉉大統領でさえ自制した竹島訪問を、大阪で生まれた保守派の李明博大統領が実行した意味は深い。つまり、竹島訪問はこれからの韓国大統領にとっての「踏み絵」となったのだ。今年末に実施される韓国大統領選の有力候補である与党セヌリ党の朴槿恵氏も、野党民主統合党から出馬の意向を示している金斗官氏も当選後に竹島を訪問する意向をすでに示している。誰が次の韓国大統領になるにせよ、竹島を訪問することは韓国大統領になるための最低条件になったといえよう。

日米韓の安全保障協力にまたも水を差す

 今回の竹島訪問の直前、ハワイ沖では日米韓海軍演習が実施された。北朝鮮の核・ミサイル開発や中国の台頭などに備えた三カ国協力の深化が求められるようになって久しいが、不安定な日韓関係がそれを妨げてきた。

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