チャイナ・ウォッチャーの視点

2012年8月22日

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有本 香 (ありもと・かおり)

ジャーナリスト

企画会社経営。東京外国語大学卒業後、雑誌編集長を経て独立。近年とくに中国の民族問題の取材に注力している。『中国はチベットからパンダを盗んだ』(講談社)『なぜ、中国は「毒食」を作り続けるのか』(祥伝社)の他、近著に『中国の「日本買収」計画』(WAC BUNKO)がある。

 殺されかねないとわかっていても信仰を捨てないチベット人と、神も仏も畏れない貪欲さで生き抜こうとする中国人。あえて「チベット対中国」として見れば、これはけっして利権の分捕り合いという話ではなく、まさに価値観の対立なのだ。日本のマスメディアもそこがわかっていなかったようで、2008年、北京五輪の年に起きた「ラサ騒乱」の報道では、「チベット人と中国人の経済格差」ばかりがクローズアップされていた。

 経済格差ということでは、最近のチベットではチベット人の間の経済格差も大きくなっている。共産党とのつながり深いファミリーの子弟のなかには、中国本土の沿岸部の都市などでリッチな大学生活を送る者もいる。流暢な中国語を話す者も少なくない。では、そういう若者はいまの共産党体制に不満をもっていないのか、といえば答えは必ずしもイエスではない。むしろ、チベットにいながらチベット人がマイノリティとなったために、差別が日常化している、といい、チベット人としての民族意識は若い世代のほうが強い面もあるのだという。

民族グループ間での喧嘩が増えた

 同じことはウイグル人の間でもいえるようだ。かつては、ウイグル人の学校に通ったウイグル人と、漢人学校に通って育ったウイグル人が集った際に、漢人学校出身者が漢語交じりの言葉を話しても誰も諌めもしなかった。が、最近の若者は「ウイグル人同士で漢語など話すな」という具合だという。親たちの世代にはほとんどなかった、学内での、ウイグル人グループ対漢人グループの喧嘩も最近は少なくないという。

 こうした日常のことを見ても、中国共産党による60余年の民族政策は成功しているとはいい難い。ましてや、わかっているだけでも50人近い人が生身を燃やして抗議するなどという異常過ぎる事態を見れば、明らかに失敗である。むしろ自身の手で火種を大きくしているようなものといっても過言でない。

 まずは、国民に人間らしい生活を保障してこそ真の大国への道も開けようというもの。隣国である日本が送るべきメッセージはここにある。

[特集] 中国によるチベット・ウイグル弾圧の実態

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