あの挫折の先に

2012年8月30日

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夏目幸明 (なつめ・ゆきあき)

ジャーナリスト

1972年、愛知県生まれ。愛知県立豊橋工業高校から早稲田大学へ進学、卒業後、広告代理店に入社し、その後、雑誌記者へ。小学館『DIME』に『ヒット商品開発秘話 UN・DON・COM.』を、講談社『週刊現代』には、マネジメントの現場を描く『社長の風景』を連載。ほか、明治学院大学講師をつとめ就活生の支援を行う。『資格の学校TAC』では、就活生と一緒にエントリーシートを書き、面接練習を行う講座を持つ。
執筆記事:「社長の風景」(現代ビジネス)、「火力発電所奮闘記」(『VOICE』)、「ビジネスの筋トレ」(『フレッシャーズ』)、「就職活動セミナー」(『資格の学校TAC』)

書類100枚のうち
95枚が想定問答集だった!?

 その後、『だれとでも定額』を社内に提案するときも、彼は事前の準備と説明を欠かさなかった。社内には「本当に利益は出るのか?」といった疑問の声がうずまいたが、彼はそう反論する社員一人ひとりに説明したという。

 「一般的なお客様はほとんど、10分を超える通話はなさりません。ビジネスの話は平均3分。家族とも、10分以上話す回数は限られます。こういったデータがすべて頭の中に入っており、反対論に対する回答も滞りなく返せると、相手も“そこまで考えているのなら”と納得してくれるのです。しかも、地区を限定し、利益が出るかどうかを試験してみたところ、上々の結果を得ることができました」

寺尾は『だれとでも定額』のアイディアを、会社の周りを歩いている時に思いついたという。常に自問自答を繰り返し、考え続けることが、新たな発想を得る近道と言える。

 ここまで事前の準備をしたからこそ、通ったプランだった。むしろ、どれだけ優れたプランを思いついても、社内で説得し、上司に“やってみろ!”と味方になってもらえなければ実現はできないのだ。寺尾は「このプランを実現すれば日本人のほとんどがトクをする!」と確信を持ち、つまり、大いに加入者の増加が見込めると考え、いよいよ親会社・ソフトバンクの孫正義氏にプレゼンをした。

 「この時、プレゼンシートを100枚くらい用意していったのですが、実際に使う資料はそのうちの5枚程度で、あとは孫さんから質問をもらったときのために作った想定問答集でした。どの質問が来たら、何枚目に何が書いてあるかまで全部頭に入れた上で、孫さんを“仲間にしに行った”わけです(笑)。プレゼンが終わった時、孫さんは『なるほど! これは今までのソフトバンクにはなかった発想だ!』と言ってくれ、それから『だれとでも定額』の全国規模での実現を後押ししてくれるようになったのです」

“怒られるのが恐い”から準備を怠らない

 冒頭で紹介した佐々木希さんが登場するCMは、孫正義氏がウィルコムのために助言をし、実現したものだった。最後に、寺尾は笑って言った。

 「僕はただ、偉い人に怒られるのが怖いのかもしれない(笑)。そういう点では、今も、これを読んで下さっている若い方と同じなのかな、と思います。実は私、『プレゼンの見せ方』や『流ちょうな話し方』などを学んだこともあるんですよ。しかし結局は、事前の準備を怠らず、相手を味方に付けることが一番の近道でした」

POINT]
寺尾は、ミスをした時、上司への報告を何よりも優先したという。現在、執行役員という立場にいる寺尾はこう振り返る。
「報告がまとまっていないから、上司へも上げられないと問題を抱えてしまう若手の子がいますが、まとめなくていいと思います。問題が起きているなら、すぐに相談に来て欲しい。大きな問題だと思っていたものが、もしかしたら、上司にとっては些細なこと、という可能性もありますしね」

(※文中敬称略)

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