2024年4月24日(水)

渡辺将人の「アメリカを読む」

2012年8月27日

 こうしてみると、中間選挙後に「中道化した」と言われたオバマ政権は、決して政権全体として中道化していたわけではないことがわかる。オバマ支持基盤は依然として「黒人、リベラル派、高学歴、若年層、東部、世俗派」であり、2012年選挙でも基礎票なしには再選はできない。「(ビル)クリントは中間の立場だと公言し、自らを意図的にそう位置づけたが、オバマ大統領に同様の考えはない」と政権関係者はあくまで軸足は「リベラル」である独自路線を強調する。

経済ポピュリズム路線に一転
中間選挙後オバマ政権「第2期」

 2010年中間選挙後のオバマ政権「第2段階」(2011年秋~)は、上記の「中道化」から一転して労働者寄りの経済ポピュリズム路線に回帰することで幕を開けた。オバマは政権内の経済専門家による財政問題と雇用問題の扱いをめぐる抽象的議論に不満を募らせていたが、2011年9月に政権内のエコノミストに一度は拒絶されていた雇用対策案を議会に提出したことが皮切りである。現在に至るまで、オバマ陣営は基本的にこの路線を踏襲し、大統領選挙を戦う方針を展開している。

 オバマ政権の経済中道化や遅々として進まない雇用対策へのリベラル派の苛立ちは、連邦議会でも噴出し、下院では2011年8月上旬にジャン・シャコウスキー議員による雇用対策の独自提案が提出された。学校、公園などのインフラ整備や医療サービスへのアクセスの拡充に伴って220万人の雇用を創出し、失業率を1.3%下げるとしていた。また、ウィスコンシン州知事による公務員の団体交渉権制限に反対するデモとリコール運動が、ニュース専門放送局・MSNBCのリベラル系ホストであるエド・シュルツらのキャンペーン報道で焚き付けられていた。

 オバマ政権はこうした「党内外圧」と危機的な失業率に鑑みて、2012年再選を睨んだモードに左旋回した。2011年夏以降、8月のアイオワ州での模擬投票以降、バックマン、ペリー、ケーンなど共和党の予備選候補への注目が高まっていた。予備選の共和党ディベートでは、バックマンの「オバマをワンターム・プレジデント(1期だけの大統領)に」のかけ声にみられる、「反医療保険改革法」「反オバマ」で舌戦が展開された。メディアの関心を大統領に取り戻し、共和党に反論する意味でも、政策でわかりやすい花火を打ち上げる必要があった。この頃から、政権内でも政務チームそれも再選陣営と直結するシカゴ系のチームの発言が再び増すようになった。

雇用対策と製造業復活
財政赤字は棚上げ

 「永続的キャンペーン」という言葉を生み出したのはビル・クリントン政権であるが、なるほど現職大統領であることは最大の武器でもある。2011年後半以降のオバマ政権の政策は、再選キャンペーンの一環としても読み解ける。オバマ政権による雇用対策法案は、総額4470億ドル規模の雇用対策を盛り込んだ法案で、インフラ整備、公共事業、失業者や退役軍人を採用した企業への税制優遇、教育関係、軍関係などが目玉であるが、2012年選挙で票として押さえるべきグループへのメッセージ効果を工夫しているのが特色である。効果がすぐ出なくても同法案を提案した足跡でアピールできれば政治的意義はある。


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