ヒットメーカーの舞台裏

2012年9月17日

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池原照雄 (いけはら・てるお)

ジャーナリスト

1950年生まれ。専門紙や全国紙の経済記者として自動車、エネルギー、金融、官庁などを担当。00年からフリーになり幅広い執筆、講演活動を展開。著書に「トヨタVSホンダ」(日刊工業新聞社)、「図解雑学 自動車業界のしくみ」(ナツメ社)など。

 介護の現場では、通常の調理では噛んだり、飲み込んだりするのが困難な人のために、食品を一度細かく砕き、ゼリー程度の軟らかさに固めることがある。従来は寒天やゼラチンが使われることが多かったが、食品とともに加熱し、さらに冷やすといった手間が必要だった。「まとめるこeasy」は、常温のままで一緒にミキサーにかけるだけで済む固形化のための補助粉末だ。

 硬さは粉末や水分の量、食品の温度を調整することで、柔らかいムース状や、硬めのゼリー状などと調節できる。焼き魚やみそ汁など、温かいものも固形化でき、冷めても一定の加熱時間を守れば、形をこわさずに温められる。食品の本来の味、色、香りを大きく損なうことなく固形化するので、食欲につながる見た目も良い。

 また、果物やジュース、ヨーグルトなどと使うと、ぷるぷるしたデザートが簡単にできる。本来は病院や特別養護老人ホームなどの施設向けに開発したのだが、要介護者を抱える家庭や、デザートづくりを楽しむ人にも評判が広がっている。一般向けには通信販売で、2グラム入り20本を「お試しBOX」として500円で販売している。6月に発売、初年度1億5000万円の計画に沿って順調に売れているという。

 製造・販売するクリニコは、森永乳業の全額出資子会社で、医療や介護向けの食品類などを担っている。「まとめるこeasy」は、2009年に企画情報部製品開発チーム主任で、国家資格である管理栄養士の岡田輝子(32歳)が中心となって、商品化の検討を始めた。

 きっかけは、岡田が森永乳業の研究所員とともに、ある老人ホームを訪問したことだった。この日、提供されていた食事が余りにも丁寧に調理されていたのに、岡田らは感動した。ペースト状の流動食だが、ひとつ一つの素材ごとに手を加え、見た目も美しく仕上げていた。たとえば、高野豆腐と野菜の炊き合わせだと、これらを一緒にミキサーにかけるのでなく、材料別に加工し、まさに「炊き合わせ」を再現していたのだった。岡田の目には、楽しそうに食事する入居者の姿が焼きついた。「こうした調理が手早くできるような補助剤があるといいですね。やりましょう」。岡田と開発の実務を担う森永の研究所員は、そう話し合った。

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