チャイナ・ウォッチャーの視点

2012年9月13日

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城山英巳 (しろやま・ひでみ)

時事通信社外信部記者

1969年生まれ、慶應義塾大学文学部卒業後、時事通信社入社。社会部、外信部を経て2002年6月から07年10月まで中国総局(北京)特派員。 外信部を経て11年8月から2度目の北京特派員。11年、早稲田大学大学院修士課程修了。現地での中国取材は10年に及ぶ。16年5月に帰国し、現在外信部記者。近著に『中国 消し去られた記録〜北京特派員が見た大国の闇』(白水社)、著書に『中国臓器市場』(新潮社)、 『中国共産党「天皇工作」秘録』(文春新書、「第22回アジア・太平洋賞」特別賞受賞)、『中国人一億人電脳調査』(文春新書)がある。14年に戦後日中外交史スクープで13年度「ボーン・上田記念国際記者賞」を受賞。

 公安当局も若者たちの怒りの本質を熟知している。だから「反日」は時間が経てば、「反政府」に転化するとみて、反日で「ガス抜き」させ、彼ら彼女らが恒常的に抱える政府への不満も解消させる一石二鳥の効果を狙い、頃合いを図り、自然と分断させる巧妙な手法を学習しようとしているのだ。

 「愛国をコントロールできない」と開き直る共産党・政府は、「民」との距離の取り方に苦慮している。「民を怖がっている」という共産党の危機感は年々増幅している現実だけは間違いない。

過激論たしなめる理性的意見

 8月19日に発生した反日デモのうち、日本料理店の窓ガラスを壊すなど暴徒化したのは深圳だけだった。その他の都市は、「日本製品ボイコット」や「小日本は出て行け」など、横断幕のフレーズは厳しいものの、整然と行進が行われた。

 「釣魚島は中国のもの、蒼井そら(中国で大人気の日本のアダルト女優)は世界のものだ」。こういう赤い横断幕が各地の反日デモで登場して話題となったが、尖閣問題では譲らないが、日本のすべてが嫌いではない、「これはこれ。あれはあれ」という中国の若者の割り切った対日感情が見て取れる。「日本製ボイコットを叫ぶけれど、使っているカメラはキヤノン」というような感覚だろう。

 筆者は8~9月、中国政府の対日当局者、中国人教授、弁護士など多くの知識人と尖閣問題について意見交換したが、大部分は「中国人は以前に比べて日本に対して理性的になっている」と解説した。

 実際のところ8月26日に反日デモが起こった広東省東莞市では日本料理店を襲おうとしたデモ隊に対し、別の参加者から「理性的行動」を求める声が上がったほどだ。

 長く対日交流に携わっている中国当局者も「日本に対して過激な発言が出ても、それにたしなめる理性的な発言が出る。これがこれまでと違う所だ」と漏らした。

日中関係安定へ「微博」の役割

 日本の対中関係者の間にはこれまで、反日的な言論を統制でき、反日デモを抑制できる共産党一党体制が存続する方が日中関係は安定する、という根強い見方があった。中国が民主化すれば、一気に反日感情が吹き出すのでは、という考え方が根底にある。

 しかし今回の尖閣問題をめぐる中国人の対日感情を見ていると、こうした論理はもはや破綻したと見た方がいいだろう。理由の一つは既に触れたように、共産党・政府はもはや反日感情をコントロールできなくなったことだが、もう一つについては人民大学教授で、近代日中関係に詳しい改革派・張鳴が筆者にこう解説してくれた。

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