2024年4月19日(金)

都会に根を張る一店舗主義

2012年9月28日

ピーマンとエリンギの醤油焼きと季節野菜のサラダ。シンプルな野菜料理もおいしい

 メニューの裏にさりげなく、「MY田畑」のすすめ、とある。何かと思えば、お客にも、主食の自給を勧めているのだ。“一人分で、田んぼが50平米(15~20キロ分)に大豆も20平米(2~3キロ分)、味噌にして5~6キロ分。翌年、自立して自給したい人には、田や畑をお探しします。移住の斡旋をします”とまで書かれている。

 週末、お客さんたちと田んぼに出かけるようになって、まだ数年だというのに、すでに10人もの都会の人たちが、脱サラして千葉県に移住するという。

 「脱サラした40代の耳の不自由な女性は、家のリフォームワークショップをやっていますよ。それに性的マイノリティーのカップル。テレビの声優さんやプロデューサーさんも移住しようとしています。45歳くらいの元自衛隊員もいますよ。ペルシャ湾で海賊相手の任務をついていたんですが、キャンプ場をやりたいといって。ほとんどが半農半Xですね。戦後まで45%が自営業だったのが、今はサラリーマンが90%近い。バランス悪いんですよね」

 この「MY田畑」プロジェクトは、NPO化して、移住者たちがオーガニック弁当を作ったり、民泊を始めたりして小さな収入になるシステムを模索。うつ病支援の会社も、参画しています。農作業は、本当に心にも効くのだと高坂さんは言う。

小さい場で最小限のエネルギーを使って、社会変革

 店には『減速して生きる』を読んで、自分も小さなカフェやバーを開いてみたいという人たちが、各地からすでに50人ほど足を運んだらしい。

 中には、小さなバーの親父に転職した競艇選手もいて、「加速して生きてきたのが、減速して生きるにつかまりました」と笑った。 

 高坂さんは、昨年から休日を使って政治活動にも携わっている。ドイツやオーストラリアではよく知られている「緑の党」日本版の4人の共同代表の一人だ。

 格差もなく、核もない社会、緑の森と小さな農業・漁業を守り、自然と共存できる未来を目指す。小さな場所で最小限のエネルギーを使ってこその社会変革が、これからは重要だとも言う。最後に、小さな商売の魅力って何だろう。

 「小さな本物の商売をしていくと、小さな循環経済が起こってくるんですよね。たとえば大桃さんの豆腐を使っていると、大桃さんの店からもお客がやってくる。こうして仕込みに使ったお金は、1~2カ月すれば戻ってくる。それは同時に、経済の分かち合いでもある。小さい店だから一人占めしないで、いっぱいになったら近所の店を紹介する。若い人たちがやっている『魚串 炙縁』という店や、和定食の老舗『TEISHOKU美松』などには食材の問屋や寺田本家を紹介しましたが、そうやってシェアすると、こちらもお客を紹介されたり、地域にも活気が出るし、気分もいいでしょう」

 小さいけれど、ほろ酔い加減で店を出れば、たまには、月でも眺めようかという気分にしてくれるユニークな空間なのである。

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