2024年4月26日(金)

ベテラン経済記者の眼

2012年10月10日

 日中関係をめぐっては、これまで政治が冷え込んでも経済だけは活発な交流を維持する「政冷経熱」と言われ、相互に経済的な恩恵を分け合ってきたが、今回は完全に「政冷経冷」となってしまっている。ほとんど凍り付いてしまったような関係はなかなか回復するめどが立たない状況だ。

 今週、中国では10月1日の国慶節から続いた大型連休があけ、社会が本格的に動き始める。多少のインターバルを置いてどんな動きが出てくるか注目されそうだ。 

中国に自省を促す記事が少ない

 私自身、10年以上も前にごく短期間だったが中国での取材経験がある。ビザ申請時には、訪問先や具体的な取材内容など詳細な説明を求められ、さらに出版物・映像などの事後提出も要求された。欧米など他の地域のように自由に取材に回ることも難しく、ジャーナリスト仲間の北京や上海の特派員の経験者に最近の状況を聞いても、現地駐在の記者であっても取材には様々な制約があるそうだ。こうした困難な中で、中国発の報道は展開されており、現場の記者諸兄の努力には敬服する。

 ただ、これまで一連の報道をみて気になるのは中国が日本との経済関係を悪化させた場合、中国自身も苦しい状況に落ち込むということの指摘や、経済を「人質」に取るような姿勢を批判する視点が十分でない点だ。

 この20年間を振り返ってみても、日本と中国の経済関係は急激に拡大し、日中の貿易額は約3500億ドルに達して中国は日本の最大の貿易国となっている。日本との経済関係が悪化すれば中国自身も不利益を被り、打撃になるはずだ。ひいてはアジア全体の経済にも響いてくる。それを回避するためには中国に自省を促し、警告するような記事や論考がもっとあってよいのではないかと思う。

 中国への集中リスクを懸念して、ベトナムなど他の新興国に生産を分散化させている企業や、中国でのビジネスに見切りをつけて資本の引き上げを検討する企業も次第に増え始めている。日本からの出資や企業進出があってこそこれまで中国経済が潤ってきた部分があることを中国に自覚させるためにも、厳しい批判精神をもった報道は必要だ。中国発の報道で激しい中国批判を展開することは難しい面もあるだろうが、一方的に日本が被害にあっているという視点だけでなく、中国にも応分の責任があるということを指摘するバランスある経済報道がいま強く求められていると思う。

[特集] 中国経済の危うい実態


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