2024年4月19日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年5月12日

 ASPI(オーストラリア戦略政策研究所)のマイケル・シューブリッジ防衛・戦略・国家安保担当部長が、外国関係法に基づき豪州の国全体としての外交政策が首尾一貫したものに整えられたことを評価する論説を、4月23日付のASPIのStrategistに書いている。

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 昨年12月、豪州議会において外国関係法が成立した。外国関係法とは言うが、中国の浸透を阻止するための法律である。この法律は、概括的に言えば、州および特別地域、地方自治体、公立大学が外国の諸機関と結ぶ取極めについて、これら取極めを豪州の国益および外交政策との整合性の観点から外務大臣の承認に係らしめるものとして、既に締結された取極めについてもこの基準に反すると判断されれば廃棄する権限を外務大臣に与えるものである。この法律に基づき、4月21日、ペイン外相は、ビクトリア州政府が締結した4つの取極めを廃棄することを決定した。そのうちの2つは2018年及び2019年に締結されたいずれも「一帯一路」プロジェクトに係わる中国の国家発展改革委員会との取極めである。他の2つはイラン及びシリアとの取極めである。

 豪外務省には 1,000を超える取極めが報告されている由であるが、同外相は1つの取極めを承認したこと、残りについては審査を続けるが大多数には何ら影響はないとの見通しを述べた。

 外国関係法の標的がビクトリア州の「一帯一路」に係わる取極めにあることは当初から明らかだったようである。大学については議論があったが、留学生や資金を中国に依存する大学が多く、孔子学院を誘致している大学もあることに懸念があった。結論的には対象となる大学間の取極めは相手の大学に十分な自立性がない場合に限定することで大学も対象に含めることとされた。

 以上の事態の展開の大きな背景は、豪州国内で強まっている中国の豪州国内への干渉に対する懸念と嫌悪であることは指摘するまでもない。

 ASPIの論説が、今回の決定を国の首尾一貫した政策を整えるものであり、主要な政策変更だと評価していることは頷ける。豪州の中国との関係は最悪の状態にあるが、それにもかかわらず、あるいはそれが故に、この政策変更に踏み切ったことは評価に値しよう。キャンベラの中国大使館は「一帯一路」に関する取極めが廃棄されたことに不快感と反対を表明し、中国に対する非合理的で挑発的な行動だと非難している。

 ASPIの論説は、豪州のそれとは対照的なものとして、ニュージーランドの中国との関係及び4月19日のマフタ外相の「龍とタニファ」と題する演説に言及している。この演説は、中国との関係が如何に大切であるかを強調するものであり、そこには中国の悪行を非難する言葉あるいは豪州のような友邦を支持する言葉は一言もない。「人権のような問題は一貫性があり国にとらわれない方法でアプローチされるべきである」と述べているが、ウイグル族への虐待は非難するが、中国を名指しはしないという意味であろうか。

 4月22日、ウエリントンでペイン外相と会談した後の共同記者会見で、「ファイブ・アイズ」を中国に対する意見表明の場として使うことについて問われて、マフタ外相は、「ファイブ・アイズは安全保障とインテリジェンスの枠組みである。特定の問題について、例えば人権の分野で、連合を作るために常に最初の寄港地としてファイブ・アイズを持ち出す必要はない」と述べた。豪州が耐え忍んでいるような中国の経済的ボイコットにあえば、ニュージーランドはひとたまりもないと彼女は思っているのであろう。そのために、「ファイブ・アイズ」はインテリジェンス共有の枠組みであり、政策調整の場ではないとの理屈を述べている。「ファイブ・アイズ」(昨年、香港について共同声明を出したことがあるが、その際、中国は激越に反発した)を持ち出して嫌がるニュージーランドを巻き込む必要はなかろうが、ニュージーランドは中国との抜き差しならない関係に陥ることの危険性は認識している要があろう。

  
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