この熱き人々

2012年10月30日

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吉永みち子 (よしながみちこ)

1950年、埼玉県生まれ。85年、『気がつけば騎手の女房』で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞。著書に『母と娘の40年戦争』(集英社文庫)、『怖いもの知らずの女たち』(山と溪谷社)、『試練は女のダイヤモンド』(ウェッジ)などがある。

世界をフィールドに

 心地よい風が吹きぬけるケンゾーエステイトのテイスティングハウスの奥にあるVIPルームの木の壁が開くと、大型のディスプレイが現れる。世界中のカプコンとつながり、テレビ会議ができる。会社を経営と執行に完全に分け、辻本は経営責任者として常に現在何が起こっているかを把握し、年間計画、中期、長期の計画を立てる。経営のIT化を進めたことですべての情報はデータベースに送られ、それに毎日目を通す。

フレンチ・オークの樽が並ぶケイプ

 「数字を見ていれば、問題のあるところはすぐわかる。修正できないところまでいってしまった問題を抱えたらダメ。早めに集中的に手当てする。さらに、経営者は変わっていく時代を読み、新しい投資をしていかなければならない。すべての状況をしっかり把握して判断する。完璧に見えないまま判断を下すのはサイコロで決めるのと同じことだから」

 人の言葉より数字の方が正確に問題が見えると辻本は言う。言葉だと説明の上手な者と下手な者で実態が違って見えることがあるが、数字は客観的な事実を、余計な情報を排除して正確に伝える。だからあらゆる数字を完璧に把握していることが辻本の安心につながる。

 「絶対に押さえておかなければいけないのは、無茶と無理はしないこと。借金も投資もすべては身の丈でやること」

 成功者に冒険家のような大胆さをつい重ねてしまうと、この言葉は意外な気がする。そんな思いを察知したかのように「冒険は自分の金でなきゃできないものです。要は身の丈そのものを大きく育てればいいわけだ」と笑った。

 「楽してもお金。苦労してもお金。でも5年たったら楽したお金は何も残らないけど、苦労したものはしっかり残る」

 成功して財をなした人がステイタスとしてワイナリーを買うという話は聞く。だが、辻本は土地の開墾からワイナリーを作り上げた男なのだ。個人の全財産を注ぎ込み、失敗を乗り越え、時間に耐えたぶどう畑は今、深紫や薄緑の実をしっかりと実らせている。

 最高のワインをみんなに飲んでもらいたい。その目標のために、値段はぎりぎりまで抑える。自分へのご褒美としてちょっと頑張れば飲める価格で最高のワインを送り出す。さらにフルボトルではなく、ハーフボトルも作る。半額なら買いやすいし、販売リスクが減るのでレストランでもグラスでの提供がしやすい。

 「ハーフならクーラーボックスに入れて公園なんかで飲めるけど、フルじゃできない。ひとりだとフルを開けるのをためらう。今までハーフは安いものという傾向があったけど、量は少なくてもいいものを飲んだほうがワインがわかると思うし、エレガントなワインはどんな料理にでも合う」

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