オトナの教養 週末の一冊

2012年10月30日

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 京都大学の山中伸弥教授がノーベル医学・生理学賞に輝いた。

 山中教授は、成熟した体細胞を初期化して、あらゆる細胞になる能力をもつiPS(人工多能性幹)細胞をつくりだすことに成功した。マウスでのiPS細胞作製から6年という異例の早さでの受賞に、研究者や医療関係者のみならず、バイオ業界全体が久々の高揚感に湧いている。

 10月12日、横浜で開かれたBioJapan2012。朝一番のセッションに急遽、山中教授が登壇すると、会場を埋めた聴講者がスタンディングオベーションで迎えた。

 私も手放しで、うれしかった。「日本という国が受賞した」というのはまさにその通りで、ES細胞から始まる再生医療研究を引っ張ってきたのは、大勢の日本人研究者たちである。

 容易に結果が出ない再生医療に地道に取り組んできた研究者、医者、患者のみなさんの奮闘は、東嶋和子著『人体再生に挑む』(講談社)でぜひご覧いただきたい。

「新たに発展しつつある生物学の一分野」

 が、今回ご紹介するのは拙著でなく、『生態進化発生学』(東海大学出版会)。本書も手放しで、とにかく面白い!

『生態進化発生学』 (スコット・F. ギルバート他 著、東海大学出版会)

 サブタイトルに「エコ‐エボ‐デボの夜明け」とある。舌をかみそうなカタカナに、首をかしげる方も多いはず。環境、発生、進化を統合した、「新たに発展しつつある生物学の一分野」なので、まだぴったりする造語、訳語がない。

 本書によれば、「生物の発生を環境との関連で研究し、また発生の分子および形態的側面の研究を、生態学、進化学そして医学と統合する分野」である。「生態学的、進化学的な発生生物学」ともいう。

 要するに、――436ページの大型本の内容をはしょるのは勇気がいるが――、生命の設計図であるゲノム(全遺伝情報)のどこをオン、オフにするかで細胞の行く末が変わり、生物の表現型も変わる。すなわち、「環境がたんに変異を選択するだけではなく、変異の創出を助ける」ことを明らかにする生物学といえようか。

 私たちが受精卵から発生し、生まれ出て成人し、老いてゆく、そのどの過程においても環境や食べ物や運動といった外的要因によって遺伝子のスイッチが切りかえられ、私たちは“別のもの”になる。さらに、その変化のある部分は子孫に受け継がれる、というのである。

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