2024年4月25日(木)

渡辺将人の「アメリカを読む」

2012年11月5日

 筆者はロムニー氏の弁舌を何度も直に聞いてきた。予備選での遊説、共和党予備選TV 討論、共和党全国党大会。ギルダー氏が評価するだけのことはあり、少々早口だが、内容のポイントが定まっていれば、弾丸のようなトークは切れ味があり迫力もある。共和党予備選TV討論では、他の候補者から集中砲火を浴び、「ロムニー対ほかのすべての共和党候補」というシーンを何度も生き残ってきた。

 「ロボットのようで人間味がない」「普通の人とのコミュニケーションに違和感がある」という批判はある。しかし、タウンミーティング方式では不利な要素だが、通常のTV討論では、政治家を相手に議論をする(2012年のTV討論では2回目のみタウンミーティング方式)。2008年大統領選では本選まで勝ち残れなかったので、ロムニーの1対1の大統領選討論には未知数の部分もあった。しかし、1回目のTV討論では、ロムニーは共和党内の不安を払拭するだけのパフォーマンスを見せた。

オバマ陣営流「対立軸」を陳腐化した
ロムニーの「奇襲」

 しかし、ロムニーの初回のTV討論勝利の鍵は、その弁舌力ではなく、「奇襲」とも言える中道路線と関係していたことは明記しておく必要があろう。ロムニーは規制の必要性を一定程度認めたほか、中間層減税にも理解を示した。オバマはお株を奪われた格好になった。

 もともとロムニーはかつてのレーガンと同様に、予備選では保守路線をひた走り、本選で中道に戻って無党派層や穏健派にもアピールすると共和党関係者は予測していた。その通りに行動しているとも言える。

 オバマ陣営は2012年選挙戦を通じて、「選択」をキーワードに対立軸作りに腐心してきた。富裕層重視VS中間層重視、歳出削減VS将来への投資(教育、インフラ)、防衛費維持VS防衛費削減など、「狭量な小さな政府」VS「役に立つ大きな政府」という明確でイデオロギー的な「分裂」のトーンをオバマ陣営側としても、セットすることに貢献してきた。対立構造の2極化を前に「どちらを選択するのか」と有権者に迫ってきたのだ。

 オバマ大統領もこうした陣営の戦略の土台に乗って、TV討論のトーキングポイントメモを作成し、リハーサルを繰り返してきた。対立軸をより鮮明に打ち出して、ロムニーとの差をアピールするつもりだったのだ。「経済を回復しようとする努力にサボタージュがある。そのサボタージュの主こそ共和党」という主張で、ミドルクラス重視を訴えるつもりだった。

 ところが本番の討論で、ロムニーもミドルクラス重視・ミドルクラス減税と言いだした。ロムニーが突如として部分的中道レトリックを駆使してきたことが、オバマが本調子を出せなかった背景にあったようだ。


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