2024年4月16日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2012年11月13日

 資金需要があって初めてマネーサプライが増えるのであって、その逆ではない、すなわち市中に資金を増やすにはまず銀行による貸出行動がなくてはならず、そこからボトム・アップで生じる流れが中央銀行に受動的対応を引き起こし、ひいてはマネーの増発を生むとするのが銀行学派で、年来、伝統的に、これをいささか頑ななまで信奉してきたのが日銀です。

 それに対し、経済学界多数説は、トップ・ダウンの経路を重視します。中央銀行が証券買いオペをして資金を銀行間市場に提供すれば、それが短期から長期に及ぶ金利のカーブを寝かせ、やがて企業や家計に資金需要を呼び起こすであろうとするのが、通貨学派の見方です。ここで中央銀行は状況に対する受け身をとらず、主導的アクターとして出動することが想定されています。

 QEIIIについては、以下の3点について特に留意する必要があります。

 第一に、FRBが金融緩和を必要とする最大の理由に「雇用の改善」を掲げた点には、注釈が必要です。世界の主要中央銀行にあって、物価の安定という当たり前のミッションに加え、「雇用の安定」を使命として明示的に掲げる例は米国の場合だけです。このことがFRBの政策を過剰にしがちであることは、長年指摘されてきました。QEIIIの帰趨を見る上でも、米国に特異なバイアスがどう影響するか見守る必要があります。

 第二に、QEIIIは公的住宅金融当局(ファニー・メイとフレディ・マック)の証券化債券を買い上げることとされ、米国連邦国債を買い上げ対象としなかったことがいまひとつの注目点です。オバマ政権の財政策を事実上引き受け(バック・ファイナンス)することとなるのを恐れたなど、動機にはいろいろ説明が加わります。効果のほどを疑う向きは、上にフェルドシュタインの説として紹介した通り、クレジットリスクに余力のある買い手は既に住宅市場に登場しており、これ以上住宅ローン金利に影響を及ぼそうとしたところで、さしたる意味はないと見ます。

 第三は、「中銀頼み」の状況は、世界主要国にとって、もはや通弊だということです。日本が典型であるように、財政にはもはや出動余力がありません。勢い、景気浮揚の役目は中央銀行にのしかかります。その中で、効果が「あるような、ないような」緩和策しか手段はなく、インフレの恐れ、政策解除の困難さにとりあえず目をつむる道が選択されているのが現状と言えるでしょう。

 ちなみに、今次QEIIIでは、中央銀行が住宅ローン債券の無制限な買い手として現れたことになります。濡れ手で粟のようなサヤ取り=ぼろ儲けをする金融機関が続々現れるであろうことだけは疑いを容れません。

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