2024年4月23日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2012年11月15日

 しかし、実際は、そううまくは行かないでしょう。APECにおいて台湾に政治的役割を持たせることには、中国は断固反対であり、経済閣僚以外の出席を認めていません。もちろん、それは規則で決まったことではないので、何時の日か台湾の総統あるいは外相が出席して政治的発言をした場合中国がどう反応するかは、その時の政治情勢、特に米国の決意にかかるところが大きいのですが、今のところそのような状況は全く予想されません。

 また、論説は、「牛の舌」を台湾が放棄することを示唆していますが、台湾、特に現政権を維持する国民党にとっては、台湾が全中国を代表するというフィクションの維持のためにも、それは不可能な話です。台湾が将来、本土との関係を離れて独立国家となるという願望を含めた提案ですが、現段階では、理想論に過ぎません。

 ただ、注目すべきは、尖閣の帰属の是非などについては立ち入った議論をしていないことです。わずかに、関係国の主権主張には中立というアメリカの立場と、安保条約の適用範囲だというアメリカの立場を混同しているのではないかという、台湾に対する批判的なコメント以外は詳しい議論はしていません。

 むしろ問題意識は、中国の海洋進出に対して、日本、東南アジア諸国、台湾などが結束して対抗すべきだという戦略論にあります。そして、台湾に対しては、南シナ海における中国との共同の立場は捨てて、ASEANと接近して、南シナ海について、ASEANと共通の立場に立つべきだという考え方です。

 これが現在のアメリカの戦略家の間でのほぼ共通の意識と言ってよいと思われます。したがって、日本としても、尖閣が日本の領土であるという法的主張を行うことは勿論ですが、もっと広い意味で、中国の進出に対して、地域諸国に負担や責任を分担してほしいというアメリカの戦略家たちの願望に応える措置が、日米関係にとって有益となります。日本に求められることは、防衛力の強化と集団的自衛権の行使容認が二つの大きな柱となるでしょう。

 それに加えて、日本が陰に陽に、台湾の国際的立場を高めるよう力を注げば、アメリカの戦略家たちの共通認識に沿うのはもちろんのこと、それは、日本自身の安全保障にも資することになります。


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