2024年4月20日(土)

ベテラン経済記者の眼

2012年11月8日

 結果的に日経報道が一番「正解」に近かったが、ふたを開けてみれば国債などを買い入れる基金の増額は11兆円と微妙に違っていた。通常10兆単位で積み増すのが普通だが、異例の端数がついた。おそらく日銀内部でもいろいろな議論があっただろうが、これまであまり例のない数字を打ち出したのは「日銀は事前報道があったから変えた」と勘繰られても仕方がないだろう。逆にいえば「意地でも報道通りにはしない」という、ありがちな当局対応ともいえる。

 筆者自身は、当局の政策の方向を事前報道することは、ジャーナリストの一つの役目だと自認しているが、一方であまりにかけ離れた内容や数字を「長距離砲」で打ち出すのは、正直あまり好きではない。長距離砲は結果的に内容が違ってくることが大きいからだ。結果的に間違ってしまう報道は、正確な報道とはいえないと思う。

政府の顔色をうかがいながら政策を小出しにする日銀

 今回の一連の日銀報道でもうひとつ気になったことは、日銀が政治に弱すぎることだ。

 今回にかぎらず、最近は、政府の顔色をうかがいながら政策を小出しにする日銀の姿勢が目に付く。こうした点を新聞やテレビはもっと批判してよいと思う。今回の、異例ともいえる政府と日銀の初の共同文書の発表など、政治の圧力がちらついていることは決定翌日の報道でも一部言及されていたが、政府が日銀に露骨に圧力をかけていると思われる場面はこれまでも散見されており、中央銀行の中立性の意義を考えるならば、そうした点は厳しく問題提起するべきだ。

 議論次第で変わる可能性のある政策を正確に捕まえて報道するのは困難を伴う作業だ。しかし、取材を尽くしてそうした課題に果敢に挑戦し、批判すべきところは批判するという姿勢を持ち続けることは大事なのだ、ということを今回の一連の日銀報道を通じて自分もあらためて認識した。

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