2024年4月23日(火)

World Energy Watch

2012年11月22日

(図-4) EU27カ国向け米国炭輸出量推移
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 しかし、シェールガスの価格下落により、電力会社では石炭からガスに燃料を切り替える動きが活発になっている。前回の「オバマとロムニーの石炭戦争」でも触れたように、今年の石炭による発電のシェアは40%を切ると見られている。数量にすれば、年間2億トン近い量の需要がなくなることになる。

 国内の需要減を補うため、米国の多くの石炭会社が欧州向けに輸出攻勢をかけている。英国、ドイツ、デンマークなど輸入炭を利用し発電を行っている国も多い。天然ガス価格が下落しないなかでは、米欧間の海上運賃を考慮しても石炭は大きな競争力を持っている。欧州向け米国炭の輸出数量は2010年から増加を続けている。図‐4の通りだ。

温暖化問題よりも経済性重視の欧州企業

 ニューヨークタイムズ紙によると、ドイツでは天然ガス発電では電力会社は1MWh当たり11ユーロの損失を受けるが、石炭による発電は14ユーロの利益を生じるとされている。しかし、天然ガスと石炭では燃焼する際に大きな違いがある。石炭を燃焼すると天然ガスの1.8倍の二酸化炭素が発生するのだ。

 世界で最も熱心に地球温暖化問題に取り組んでいる欧州諸国の企業が、二酸化炭素の排出を気にせず石炭の購入量を増やすというのは理解し難いが、それは欧州での排出枠価格が低迷しているためだ。リーマンショック以降の不況により欧州企業の二酸化炭素排出量は増えていない。多くの企業が割当量を余し、販売可能な状態だ。このために、排出枠の価格も低迷しており、二酸化炭素1トン当たり、7~8ユーロで推移している。安い石炭を購入し、二酸化炭素排出量の増える分排出枠を購入するほうが、天然ガスを購入するより安く上がるのだ。

 排出枠を購入しても、石炭から排出される二酸化炭素が減るわけではない。企業が削減努力をして生じた排出枠であれば削減が実行されているが、余剰割り当てで生じた排出枠を購入しても、二酸化炭素が減っているわけでもない。温暖化対策には何の意味もない行為だが、温暖化問題より価格、経済性を重要視するということだ。ドイツ政府アルトマイヤー環境大臣が言うように、最も大切なのは「電気料金」なのだ。


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