日本再生の国際交渉術

2012年12月12日

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渡邊頼純 (わたなべ・よりずみ)

慶應義塾大学総合政策学部教授

上智大学文学部哲学科卒業、同大学院国際関係論専攻博士課程修了、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部、GATT事務局、外務省経済局参事官などを経て現職。

 ただそのような「対日懐疑論」を凌駕して、日本のTPP参加を良しとする勢力がアメリカにおいて多数派をしめていることはアメリカにおける公聴会参加の86%が日本の参加を支持していたことからも明らかである。「対日懐疑派」は端的に言えば「保護主義勢力」であり、このような勢力を抑え、アメリカ国内の「自由貿易派」と協力して、アジア太平洋地域に自由で開放的な貿易体制を構築することは日本の国益である。TPPはそのような自由で開放的な制度をこの地域に定着させるための交渉である。万が一挫折する可能性があるとしても、各国の自由貿易推進派の勢力とタッグを組んで交渉することには意味がある。

 交渉は各国の政策担当者にとって一つの「学習プロセス」である。TPPでは「投資ルール」や「競争ルール」、「知的所有権ルール」など各国の知恵を出し合う交渉が展開する。各国が自国提案を出し合って、それにお互いにコメントしあい、「落とし所」という名の「妥協点」を探っていく。

 筆者はGATT(関税貿易一般協定)の下で行われたウルグアイ・ラウンド(1986~94年)でサービス交渉に参加したことがあるが、最初はそもそも「貿易可能なサービスとは何か?」ということさえ定義できていなかった。途上国を含めたブレーンストーミングを何回も行い、各国は非公式の提案を繰り返し、それに各国がコメントし合って次第に議論が深まっていく。大国の思惑だけで決まるものではなく、要は少しでも多くの国に受け入れ可能な「落とし所」を提案できるだけの「知恵」があるかどうかである。

 交渉とはこのようなプロセス全体をさすので、そもそもその交渉に参加しなければ「知恵」の出しようもないし、自国の利益をルール作りに反映させることもできない。TPPは21の交渉分野があるとされているが、そのほとんどはルール作り交渉である。アジア太平洋の成長のダイナミズムに加わることが我が国の国益に沿っていると考えるのであれば、TPP交渉に背を向けることは日本の国益に反する。

TPPで日本農業は再生する

 TPP反対論の根幹に「日本農業が危ない」という危機感がある。確かに農業就業人口の平均が67歳で、若い世代の新規農業参入が少ないという現状はとっくに警戒レベルを超えていると言わざるを得ない。

 しかし、このような状況に立ち至ったのは農業を自由化したからだろうか? むしろ逆に自由化をしてこなかったからではないのか。80年代前半に牛肉とかんきつ類の数量規制を止めて関税化に移行した時も日本の牛肉が全てアメリカ産の牛肉にとって代わられ、ミカン農家が全滅すると「危機」が声高に叫ばれた。しかし、今日の状況はどうだろう。牛肉の消費は拡大したものの高級和牛と安価な輸入牛肉との「棲み分け」が進み、料理の用途や懐具合に応じて消費者は選択している。カリフォルニア産やフロリダ産のオレンジやグレープフルーツが安価になった一方で、相変わらずミカンは日本の冬の定番フルーツである。牛肉でもかんきつ類でも全体として消費が増え、消費者に選択の幅が広がっている。このことはまさに自由貿易のメリットである。

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