あの挫折の先に

2012年12月21日

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夏目幸明 (なつめ・ゆきあき)

ジャーナリスト

1972年、愛知県生まれ。愛知県立豊橋工業高校から早稲田大学へ進学、卒業後、広告代理店に入社し、その後、雑誌記者へ。小学館『DIME』に『ヒット商品開発秘話 UN・DON・COM.』を、講談社『週刊現代』には、マネジメントの現場を描く『社長の風景』を連載。ほか、明治学院大学講師をつとめ就活生の支援を行う。『資格の学校TAC』では、就活生と一緒にエントリーシートを書き、面接練習を行う講座を持つ。
執筆記事:「社長の風景」(現代ビジネス)、「火力発電所奮闘記」(『VOICE』)、「ビジネスの筋トレ」(『フレッシャーズ』)、「就職活動セミナー」(『資格の学校TAC』)

顧客が何を喜ぶかに注目すれば、
ビジネスは変わる。

 このあと、池田は08年に営業からデジタル事業部へ異動を果たし大ヒットを飛ばすことになる。

2012年10月20日に、Apple Store 心斎橋で行われたイベント「エリックとiPadで歌っちゃおう!」の風景。(写真提供:旺文社)

 旺文社は今までに、約50の教育系アプリ*を世に出している。そして、そのうちなんと9つが「教育」カテゴリトップに輝いているのだ。「快挙」と言っていい実績だ。

 「幼児向けの英語教育アプリ『えいごであそぼプラネット』シリーズは、5本中4本が1位を獲得しました。銀座(東京)や心斎橋(大阪)のアップルストアで、NHK Eテレの『えいごであそぼ』に出演されているエリックさんをゲストにお呼びし『エリックとiPadで歌っちゃおう!』というイベントを開催*しました。この時など、アップルストアのイベント会場で立ち見が出るほどの盛況ぶりでした」

 そして、この振り返りの中に、彼一流の方法が隠されていた。アプリをどのように人気化するか。まだできたばかりの市場のため、定番の方法はない。そこで彼は、まず「App Storeのランキングでまず上位に入れよう」と考え、イベントを通し、ブレイクさせようと考えたのだ。

 「イベントの内容は、子どもたちが英語を使いたくなるものにしました。親がうれしいのは、子どもが英語をしゃべった瞬間だと考えたからです。あとで、お客様に話を聞くと、2歳のお子さんが『グッジョブ!』というフレーズと使い方を気に入って、家で多用していたのがうれしかったと聞きました。そんな瞬間を演出することが、売り上げにつながったと考えます」

アプリを見せる池田氏。「えいごであそぼプラネット」は現在、iPad/iPhone/Android向けに発売中。

 一方、教育関係者には事実に基づいたデータ*で提案をした。旺文社のロングセラー「英単語ターゲット」を導入すると、成績がどう変わるのか。学生にiPadを渡している高校に協力してもらい、本だけを渡した時と、本とアプリを同時に渡した時で、一定期間、授業では用いずに生徒の自学自習に任せた後の成績を比較したのだ。すると、本とアプリを同時に渡した時の方が成績が伸びていた。これは、導入すれば生徒の成績が上がることを示唆している。先生にすれば助かるだろう。資料を発表するだけでなく、これもアップルストアに教育関係者を招き、担当した先生方と一緒に報告イベントを開催*した。

 特筆すべきは、これら販促の方法はすべて池田自身が考え出したもの、という点だ。その方法は奇抜なものではない。彼が今まで実行してきた通り、仮説を立て、試し、よりよい方法はないか改善し、改善したものを再び試し……と繰り返すものだった。

 顧客が何を喜ぶかを考え、仮説を立て、試し続ければビジネスは変わる。池田の軌跡は、その好例と言っていい。

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