2024年4月23日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2013年1月14日

 いま国防総省は、国防科学委員会に諮り、向こう20年にわたって重要と目される技術に優先順位をつけさせることにしている。これの結果を待ちながら、議会はぜひとも開発予算を増額すべきである。政府系研究機関が大学や民間研究所と取り交わした共同研究の規定文書には、利益相反に関わる厳しすぎる禁止規定などがあるので、そうした規制は緩和すべきである、と論じています。

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 論文は、冒頭でトゥキディデスの有名な言葉、「強き者、そのなし得るところをなす。弱き者は、そのなさねばならないところに苦しむ」を引用しており、それが、全体を包む通奏音として効いている感があります。もはや、米国は、思うがまま何でも出来たかつての米国ではない、必要経費の捻出にすら難儀しなくてはならなくなった、という含意でしょう。新年早々の妥協によって、財政の崖はひとまず回避された形ですが、米国の国防費、とりわけ軍需関連開発予算に極めて厳しい圧力がかかっている状況に何ら変わりありません。

 ところで、論文は、軍需関連開発予算は3つの経路を通って経済一般に好影響をもたらすと言っています。その1つは人材育成や研究環境の向上という経路ですが、他の2経路とは、民間部門への波及と輸出への貢献です。これに関して、論文は、極めて興味深いグラフを掲げています。それによれば、2005年~09年までの軍需関連輸出の約半分が、130億ドル超を記録した日本向けで、これに、80億ドル近傍の英国とイスラエルが続き、4位は韓国で60億ドルをやや上回る程度、5位から7位までは豪州、エジプト、アラブ首長国連邦でいずれも約40億ドルとなっています。米国にとって重要な国の序列になっているようにも読めます。この面における我が国の価値は、もっと日本で自覚されるべきでしょう。

 なお、2人の著者はいずれも女性で、ジュリア・ポラックはRAND(これも軍需予算の賜物)でPhD取得を目指しつつ、訓練に応召する海軍予備役でもあります。軍需開発予算はなるほど少なくなったのだとしても、この間に米国では、「男の仕事」のイメージのある硬派の研究に、女性が精力的に乗り出して来るようになっているのです。もちろん、性別は本質的なことではありませんが、米国の人材の層の厚さの一端を示すものであり、そこに米国の強さがあると言えるかもしれません。

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