食の安全 常識・非常識

2013年1月21日

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松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)、『効かない健康食品 危ない天然・自然』(光文社新書)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同)で科学ジャーナリスト賞受賞。「第三者委員会報告書格付け委員会」にも加わり、企業の第三者報告書にも目を光らせている。

 日本の食品安全委員会は、今回の研究結果について見解を表明しています。また、市民団体「サイエンスメディアセンター」日本支部は、セラリーニ氏の発表の翌日には、批判する科学者のコメントを翻訳してメディア関係者に流しましたし、「食品安全情報ネットワーク」もウェブサイトで、一般財団法人残留農薬研究所毒性部長の青山博昭氏のコメントを掲載しました。国立医薬品食品衛生研究所の安全情報部第三室長の畝山智香子氏も、ブログで解説しました。

 ちなみに、私が運営している消費者団体「Foocom」のウェブサイト「Foocom.net」でも、10月はじめには有料会員向けのメールマガジンで「疑わしい研究」と報じ、どなたでも読めるウェブサイトでも10月末、宗谷敏氏が詳細な解説をしています。

 しかし、一般市民はこの欧米で大騒ぎだった事件を知りません。メディアが取り上げなかったのはこの時期、政局がらみの報道や原発問題、アメリカの大統領選などニュースが多く、細かくややこしい、この手の科学にまつわる動きを伝える必要性などなかったからだろう、と推測します。

 「みんなが政局がらみの取材をしているわけではないだろうに」と思われるかもしれませんが、新聞、週刊誌にしてもテレビニュースにしても、掲載される記事量や放送時間は限られるので、ほかの話題が食い込む余地はそれほど大きくはないのです。

科学報道の受け止め方
経験なしには“免疫力”もつかない

 その結果、「遺伝子組換えに発がん性」という間違った情報が日本の市民には伝わらず、よかった、という意見も、食品メーカーや組換え作物関係者にはあります。でも、世界から取り残された感は否めません。こうした経験は、市民が科学報道の受け止め方を学ぶ機会でもあるのですが、経験なしには“免疫力”もつきません。

 それに、遺伝子組換えの反対運動を繰り広げる市民団体などは、やっぱり断片的にセラリーニ氏の研究結果を利用しています。市民団体だけならよいのですが、民主党所属の参議院議員が11月末、参議員会館内で開かれた「映画を観て遺伝子組み換えとTPPを考える院内集会」を自身のブログで紹介した際、文頭で「フランスでGMトウモロコシの発がん性に関する衝撃的な実験結果が公表されました。GM作物は安全性が確認されていない事と、雑草も害虫も耐性を持ち結局農薬の使用は増え農業が破綻してしまうという問題があります」などと記しています。

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