「ロシアはアサド政権と心中しない」
変化を見せる対シリア政策

背後にある米ロ関係の悪化


廣瀬陽子 (ひろせ・ようこ)  慶應義塾大学総合政策学部准教授

1972年東京生まれ。専門は国際政治、コーカサスを中心とした旧ソ連地域研究、紛争・平和研究。主な著作に『旧ソ連地域と紛争――石油・民族・テロをめぐる地政学』(慶應義塾大学出版会)、『強権と不安の超大国・ロシア――旧ソ連諸国から見た「光と影」』(光文社新書)、『コーカサス――国際関係の十字路』(集英社新書)【2009年アジア太平洋賞特別賞受賞】など。

解体 ロシア外交

紛争、エネルギー、政治、経済など様々な外交カードを所持し、それを絶妙なタイミングで切るロシア。日本の隣人でありながらその内側がなかなか見えない大国に、不気味な印象さえ抱く。ロシアの外交、そしてその動きの背景を、ロシアと周辺国事情に詳しい著者が読み解く。

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昨年6月の拙稿で、ロシアがシリアのアサド大統領派を支援する理由を分析した。ロシアの姿勢は盤石で、国際的孤立も進んでいるかに見られていたが、最近、ロシアの対シリア政策に変化が見られる。それはどのような変化なのだろうか、また、その背後にある思惑は何なのだろうか。

西側諸国VS中露 
シリアを巡る国際関係の悪化

 前出の6月の拙稿脱稿後も、しばらくはロシアのアサド政権支持は続いた。

 たとえば7月19日には、英国が発案し他の西側諸国が支持した「シリア制裁案」が国連安保理で採決に付されたが、ロシアと中国が拒否権を発動した。結果、ロシアと中国は、国連安保理の非難決議を3回否決に持ち込んだことになる。

 ロシアと中国が拒否権を発動する背景には、2つの理由がある。第一に、前掲の拙著でも述べたように、「リビアの悪夢」を避けるべく、アサド政権打倒のために武力を用いることを防ぎたいということだ(ただし、上記決議案が可決されていたとしても、軍事介入を行うには別の決議が必要となる)。

 第二に、両国はシリア紛争への国際的介入が国連の正統性(お墨付き)によって保証されること、そのような前例が生まれることを懸念している。何故なら、ロシア、中国は共に人権問題をはじめとした、多くの「介入されうる」問題を国内に抱えており、そのような前例を楯に今後、自国に国際社会の介入の手が及ぶことを避けたいのである

 その頃、国連安保理には、政治的プロセスを期待し、国連の監視団の活動期限を3カ月延長するという趣旨のロシアによる代案が出されていた。だが、欧米諸国はこの代案を拒否したため、ロシアは代案を投票に持ち込まない意向を表明したのであった。ロシアのチュルキン国連大使はこのプロセスに関し、安保理で対決を続けるのは、無意味で非生産的だとも述べた。

 西側と中露の対立は続いた。米国、英国の国連大使たちはこのようなロシアと中国の拒否権発動に対し、シリアの混乱の責任は露中両国にあるとして激しく非難したが、ロシアのチュルキン国連大使は「西側諸国がシリア国民のことを本当に考えず、自分たちの戦略的、地政学的な課題にしたがって、シリアの武力紛争を拡大させた」という声明を発表した。ロシアのラブロフ外相も、ロシアは「シリアは第二のリビア」にすることは断固として許容できず、国連決議案には同意できないと強調した。

*リチャード・ハース「有志同盟でシリア紛争への対応を」『フォーリン・アフェアーズ・リポート』2012年8月号、79頁。

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「解体 ロシア外交」

著者

廣瀬陽子(ひろせ・ようこ)

慶應義塾大学総合政策学部准教授

1972年東京生まれ。専門は国際政治、コーカサスを中心とした旧ソ連地域研究、紛争・平和研究。主な著作に『旧ソ連地域と紛争――石油・民族・テロをめぐる地政学』(慶應義塾大学出版会)、『強権と不安の超大国・ロシア――旧ソ連諸国から見た「光と影」』(光文社新書)、『コーカサス――国際関係の十字路』(集英社新書)【2009年アジア太平洋賞特別賞受賞】など。

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