2024年4月25日(木)

Wedge REPORT

2013年1月9日

 これらの指摘は、それぞれ正鵠を射ているといえよう。一方、こうした書物にありがちなことではあるが、それぞれの指摘が批判に終わって、その改善にどのように取り組んでいくべきなのかということについては、ほとんど考察されていない。

 特に、こうした報道機関は事業者や政府に情報開示を強く求めるが、実は現場で判断・指令を行う者は、そうした外部からの情報開示の要求や内部上層部からの問い合わせなどの「情報要求」から、むしろ「遮断」されなければならない。テレビ会議画像を見る限り、吉田所長は、テレビ会議上で飛び交うさまざまな情報によって、周りにサポートされていたというには程遠い状況に置かれていた。むしろ、吉田所長が自分自身で叫んだように、「ディスターブしないでくれ」と言いたくなるような情報錯綜と正式な意思決定権者ではない者からの要求・催促に悩まされ、冷静沈着な判断ができない状態に陥っていたのである。

 今後、シビアアクシデントが生じた際には、現場のリーダー(発電所長)から原子力災害対策本部長たる総理までは、意思決定ラインの縦を多くとも3−4層程度に止めるとともに、むやみに横に拡大しないよう、意思決定ラインを情報洪水と開示要求から遮断することをどう実現するかが大きな課題となる。

 同じ12月の13日に、NHKのクローズアップ現代で「瀬戸際の内部改革」という番組が放映されていた。私がブログで取り上げた東電の原子力に関する内部改革に密着取材したものだ。

 朝日新聞の書物とこのNHKの番組を続けて見ると、東電が自らの事故対応について、同書に指摘された点も含めて相当真剣に反省し、何をしようとしているかがよく分かる。

 より詳しい文書はhttp://www.tepco.co.jp/cc/press/2012/1223639_1834.htmlで入手できる。

 この改革への試みは、ぜひ他の事業者にも伝播していってほしいものだ。できれば各社東電のこのチームに、例えば自社の原子力部門の中堅を出向させて、そのプロセスを学ばせてはどうだろうか。東電も他社も、こうしたアイデアについては躊躇するかもしれないが、福島原発の事故は「ああいう企業体質の東電だから起こったのであって、自社では起こらない」という安全神話は、もうありえないはずだ。もちろん、「出向」でなくともいいが、原子力発電に対する信頼回復のためには、どの社においても、何らかの形で、ぜひ東電の原子力組織改革の行方を綿密にフォローしてもらいたいものである。

 【筆者の御厚意により「国際環境経済研究所所長 澤昭裕ブログ」から転載させていただきました。】

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