2024年4月18日(木)

復活のキーワード

2013年3月19日

 もっとも、この官民の姿は長くは続かなかった。金の産出量が激減したからだ。鉱石に含まれる金の含有量が落ち、民間の山師たちが独自に行う「請山」の採算が合わなくなっていったからだ。江戸後期の1759年には奉行所の敷地に製錬のための作業所が集められ、奉行所が金山経営を一括管理するようになった。完全な「官業」になったのである。

 ちなみに、江戸の無宿人を佐渡金山で働かせるようになったのは、直轄事業となった江戸後期のことで、かつては高額だった採掘作業者への手当が減少、働き手が集まらなくなったことも背景にはあるようだ。無宿人の多くは飢饉などで農村を離れた農民が多く、必ずしも凶悪犯罪をした人たちではなかった。「懲罰というよりも失業対策の側面が強かったのではないか」と金山を管理するゴールデン佐渡で広報を担当する石川喜美子さんは語る。

 現代になって佐渡は、他の地方自治体と同様、公共事業に依存する島になった。農家や漁師など一次産業従事者は、土木作業と兼業するケースが急増した。官業依存の経済になったのだ。公共事業の減少と人口の高齢化で経済が疲弊しているのは他の多くの地方と同じだ。

 農林水産省は2月に農林漁業成長産業化支援機構を設立した。12年度の予算で補正を合わせて300億円を国が出資した。来年度以降も出資額を増やし、最終的には1000億円の出資にする計画だ。さらに、この機構と地方銀行などが折半出資したサブファンドが、「6次産業化」を目指す事業者に出資する。6次産業とは、農林漁業の1次産業を、加工などの2次産業、流通・外食などの3次産業と一体化して付加価値を高めようという発想である。1+2+3で6次産業化というわけだ。

 新設された機構はいわゆる「官民ファンド」である。アベノミクスが掲げる「民間投資を喚起する」効果を生み出せるかどうかがカギを握る。機構に出資する国の資金、つまり国民の税金は、民間出資の呼び水という位置づけである。だが、現状では国の300億円に対して食品業界などが応じた出資は20億円ほど。民間はこの機構が「儲かる仕組み」になるとは現段階では見ていないということだろう。

 江戸初期の佐渡の金山経営を見るまでもなく、そこに儲けるチャンスがあり、民間が利益を得られるインセンティブが働いていれば、民間の資金も人材もおのずと集まってくる。官民ファンドとは名ばかりで、官業の隠れ蓑になってしまっては、経済再生は望むべくもない。

◆WEDGE2013年3月号より

 

 

 

 

 

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