2024年4月19日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2013年2月15日

 また、特に共同開発の場合には、これまで設計者同士や技術者同士でしか話が通じない場合が多かった。しかし、3Dプリンタで立体物を作成することで、技術者以外の営業担当者でもコミュニケーションが容易になったことがあげられます。

 さらには気軽にアイディアを具現化することができるようにもなりました。これまでモノづくりを知らない人が、いくら良いアイディアを持っていたとしても、そのアイディアを具現化するためには図面を書けることが求められたりとハードルが高かったわけですが、3Dプリンタの出現によりそうしたことが容易になりました。

――そうした3Dプリンタの活用により、「モノづくりに革命が起きるのではないか」と期待する向きもありますが、どうお考えでしょうか?

水野氏:よく「3Dプリンタの出現で今までの産業がなくなる」といった極論を目にしますが、結論から言えばそんなことはありません。

 もし3Dプリンタの性能が格段に上がり、3Dプリンタのみで最終製品を作ることができるようになったとします。しかも金型を使わずに製品を多く作ってもコストが安く抑えられるくらいの変化が起きるとします。だとしても、結局は、いかに素晴らしいアイディアに溢れる人が出てこなければ、いくら性能の優れた3Dプリンタが出現しても宝の持ち腐れです。

 なぜ、本書で紹介したようなひとりメーカーの方々が現在注目されているのかと言えば、アイディアに溢れるそうした人たちが、従来の組織では活躍できないけれども、3Dプリンタや3DCADといったツールの出現により、素晴らしいアイディアを具現化が容易にできるようになったからです。あくまでも才気溢れる人がいるかどうか、それがありきの話ですね。

 さらに言えば、世の中の製品はほとんどに筐体があり、電気回路があり、ソフトウエアが動き、そうしたものの組み合わせで出来ています。3Dプリンタでできるのはあくまでも部品なのです。つまり、当たり前ですが最終製品として機能させるためには3Dプリンタがあるだけでは仕方がないのです。従来型のモノづくりプロセスは必要なものなのです。そう考えると3Dプリンタがモノづくりに革命を起こすのかと言えばそうではなくて、革命を起こすとすればそれは才気ややる気、技術力があるアントレプレナーであって、3Dプリンタはそのような人達にとって有効なツールという位置づけなのではないかと思っています。

[特集] 日本のモノづくりの底力

水野操(みずの・みさお)
1967年東京都生まれ。有限会社ニコラデザイン・アンド・テクノロジー代表。
米大学で航空工学の修士課程を終了後帰国。外資系のソフトウェア企業、コンサルティングファームなどで、主として製造業関連の業務に従事。非線形構造解析、3次元CAD、PDM(製品データ管理)等を中心に、大手自動車メーカーや家電メーカーなどでコンサルティングを担当した他、営業やプロダクトマーケティング、ビジネスディベロプメントなど事業開発関連業務も担当。2004年にニコラデザイン・アンド・テクノロジーを起業し、代表取締役に就任。現在は、同社にてオリジナルブランド製品の展開、マーケティング、ITのコンサルティングの業務を推進。
主な著書に、『初心者Makersのための 3Dプリンター&周辺ツール活用ガイド』(Kindle版)『絵ときでわかる3次元CADの本―選び方、使い方、メリットの出し方』(日刊工業新聞社)など。また、ITメディア「MONOIST」にて、「3次元って、面白っ!~操さんの3次元CAD考~」を連載中。


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