2024年4月24日(水)

都会に根を張る一店舗主義

2013年3月14日

 これだけ力が入っているし、西麻布なのだから、さぞや高級な店だろうと思うかもしれない。それがまた、金子夫婦の人柄なのだが、アラカルトももちろんあるが、ランチはコースでも2500円~、ディナーは4500~6000円と、良心的な価格設定なのである。

 フロアを1人で切り盛りする奥さんも、肩に力が入り過ぎず、こちらもいい塩梅にリラックスさせてくれる。

たった一軒のレストランの影響力

 震災後、日本人が急にケチになって、お金を使うことを控えたために、都心の高級店は大きなダメージを被った。そんな中、経営に苦労する店の生き残り策といえば、その多くが食材の原価を落とす方向に流れた。だが、これが原因で客が離れてしまった店も少なくなかったと思う。そんな中、金子さんは、長年、続けてきた野菜作りにも磨きをかけ、さらに確かな食材と生産者との距離を縮める方向を選んだ。

 東京には人が集中し過ぎていることもあって、飲食店も、ものすごい数がある。2012年、タウンページに掲載された全国のフレンチは、8373軒。ダントツに東京が多く全国平均10万人に6.56軒に対し、東京は13.03軒もあるらしい。また食べログには、東京都内で2090軒も登録されている。

 そう考えれば、その三分の一だけでも、金子さんのように自分の故郷や東京の近郊の農家とつながっていく方向を選んでくれたら、それだけでも農村や山村や離島は大いに活気づくだろうにと思う。私のような都市住民も、そういう店を入り口にして、大量生産ではないけれど、誠実な生産者のことを知ることができる。

 たった一軒の小さなレストランの影響力は、決して少なくないのだ。

 金子さんの今後にますます期待したい。そして、TPPも邁進しそうな昨今、金子さんに続くシェフたちが増えることを大いに期待したい。

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