2024年4月26日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2013年3月26日

 海上事故協定に含まれうる内容は、危険な妨害行動や衝突の防止、監視に際しての距離、信号についての合意、火器管制レーダーの照射を含む攻撃シミュレーションの禁止、事故発生時の通信方法の合意などである。

 冷戦中、米ソ間にはそういう合意があったし、ロシアは日本とも同様の協定を締結した。主権問題は早急には解決されない。日中双方の艦艇、航空機の相互行動は意図せずに紛争になりかねない。日中双方、さらに米もそういうことを望んでいない。主権問題はしばらく横に置き、日中で更なるエスカレーションを避ける合意に早急に動くことが双方の利益になる、と論じています。

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 ホーナンが念頭においている米ソ合意は、1972年に米の海軍長官とソ連の海軍司令長官間で締結された、公海における事故防止協定です。この協定の適用範囲は、あくまでも公海であり、双方が主張する領海は対象外です。したがって、同じような協定を結び、尖閣問題の鎮静化をはかることが出来るかは、疑問です。適用範囲に尖閣を入れることは双方の主張に鑑み、まず無理でしょう。

 ただ、尖閣周辺海域の公海を対象に、あるいはより広く、日中間で米ソ間にあるような公海上での海上事故防止協定を提案すること自体には意味があります。日本が衝突回避を望んでいることを国際社会にアピールできますし、協定ができれば、公海での火器管制レーダー照射のような危険行動を防ぐことにはつながるでしょう。事故の際のコミュニケーションのチャンネルを開いておくだけでも意味があります。

 中国の戦術は、日本に領土問題の存在を認めさせ、尖閣領有権について、とりあえず双方同じような権利を有するという国際的認識を確立しようとすることであると思われます。この点については、十分に用心深い対応が必要です。中国側のサラミ戦術に注意するとともに、「紛争があるのに日本が理不尽にこれを否定している」との国際社会の印象を払拭する必要があり、そのためには積極的な海外メディアへの働きかけを展開する必要があります。さらに、日本の領有権に関する立場は堅持した上で、国際司法裁判所での解決を中国が望むなら応ずる旨、堂々と打ち出すことを検討すべきでしょう。

 また、スタンフォード大学で公開されている、カイロ宣言がらみの歴史的事実が記されている蒋介石日記について、人員を派遣し詳細に調べたり、排他的経済水域での航行自由などについての論戦を中国側に挑んでいくことなども考えるべきです。

 中国は、火器管制レーダー照射の事実さえ否定しており、これは、旧ソ連や現在の北朝鮮の対応を彷彿とさせる遺憾なことではありますが、同時に、あまり高いレベルの決定によるものではないことが示唆されます。偶発的事故を回避するためにも、軍の指揮命令系統の規律がどこまで保たれているのか、注意深く観察する必要があります。

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