2024年4月24日(水)

サイバー空間の権力論

2013年4月3日

 ウィキリークスのリークを善悪で判断することは難しい。リーク=内部告発とはそもそもジャーナリズムにおいて、不正情報を社会に訴えることで価値を持つものである。とはいえ、何が不正で、どのようなリークなら正当性があるか、という問題に対する根本的な解答はない。こうした問題は別途考えるべき問題だが、ウィキリークスから読み取るべきものが他にある。それは、権力は「動く」、つまり流動的・可変的だということであり、サイバー空間を利用することで、技術一つで国際的に影響を与え得る組織が成立可能だという点である。これは、テロ組織等の物理的暴力を用いることで目的を達成せんとする組織と比べれば、あらゆる面である意味「合理的」な選択だと言えるだろう。

大衆動員と市民の支持が重要要素

 権力は、サイバー空間とウィキリークスの技術という、新たな社会的環境が成立することにより既存の構造が変化することで動く。権力が動くには、社会的な環境や、個人の意志など、複合的な要素が必要不可欠である。そしてまた、とりわけ政治の領域においては市民の支持も必要とされる。ウィキリークスがあれだけの批判を浴びながら同時に支持を獲得していたのは、彼らの巧みな動員手段が背景にあった。人々の支持は近代国家にとっては重要な要素である。

 ウィキリークスはTwitterやFacebookといったSNSを巧みに利用すると同時に、メディアへの頻繁な露出と過激な発言で注目を浴びた。とりわけSNSの利用は世界中の人々に声を届け、世界規模でウィキリークスの知名度を広げた(こうした大衆動員については、今後も取り上げていく)。

 ウィキリークスも支援を表明することで、時間の波に埋もれることなく未だに問題化され続けている事件もある。それが、元米兵のブラッドレー・マニング上等兵をめぐるものである。彼はウィキリークスへイラク戦争の内部情報を提供した罪によって逮捕され、有罪であれば禁固数十年の刑に処されると言われている(彼はチャットで知り合いに情報提供したことを暴露してしまい、それが基で逮捕された。故にウィキリークスの情報源秘匿技術が原因ではない)。彼の行為には賛否両論あるが、ネットや現実世界においても、アサンジをはじめとしてマニングを支持する者は多く、以下のサイトで寄付の受付など様々な活動が行われている。(http://www.bradleymanning.org/)。

 権力とは、持つものと持たざるものの区別が不可能である。権力は可変的であり、様々な働きの結果として、一定の社会的環境が揃ったときに作動する。まだまだ未開拓な領域の多いサイバー空間こそ、そうした権力の作動の仕方に着目することに意義があるだろう。次回は権力の働きを、より具体的な事例を通して検討していきたい。

[特集] サイバー戦争

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