2024年4月16日(火)

解体 ロシア外交

2013年4月15日

ロシアに頼りたいキプロス  戦略的なロシア

 しかし、19日、キプロス議会はEUの金融支援の条件となっていた銀行預金課税のための法案を否決し、政府は、ロシアに対する支援要請を強化せざるを得なくなった。そして、キプロスのサリス財務相は20日、モスクワでシルアノフ・ロシア財務相と会談し、50億ユーロの新規融資や、既存の25億ユーロの融資返済繰り延べを要請したが、合意には至らず、モスクワにとどまって説得を続けるに至った。ロシア側が要請受諾を躊躇したのは、EUに対する配慮だと言われる。

 他方、経済部門の大統領補佐官であるセルゲイ・グラジエフは記者団に対し、もし、キプロスがロシア、ベラルーシ、カザフスタンとともに、「ユーラシア連合」(拙稿参照)に加盟するのであれば、財政援助をすることができると発言した。荒唐無稽な発言にも聞こえるかもしれないが、それが実現すれば、旧ソ連圏外に連合国を保持できるだけでなく、EUからキプロスを引き離すこともでき、戦略的合理性は十分なのだ。

 さらに、キプロス沖の大陸棚には天然ガス資源が眠っていると言われており、今回の交渉において、キプロスは自ら支援の見返りに、天然ガス開発権の譲渡をロシアに提案したと言われている。実際、ガスプロムも同資源に関心を示し、同社の子会社であるガスプロムバンクが、「キプロスは銀行預金課税に代えて、天然ガス田の開発権をガスプロムに売却することで、経済立て直しの資金調達ができる」という独自の救済計画を提示したと報じられている。だが、その資源の有望性については疑問も多く、ロシア国内では進出に否定的な意見も多い。

 他方、ロシアの要求の一つには、キプロスで登録されたロシア企業情報があったという。国外への巨額の資本逃避や脱税は、大統領の頭痛の種であった。実際、プーチンは2012年12月の年次報告演説の中で、ロシア経済の透明性を高めるため、海外への資金移転を減少させる脱オフショア化を求めており、前述のグラジエフ補佐官も3月20日にこの機会にそれを進めるべきだと強調している。またメドベージェフ首相は21日、資本の国外流出を防止するために、キプロスのような特別税制地域を「サハリンや(北方領土を含む)クリール諸島」など極東につくる考えを示している。

 一方、英紙デーリー・テレグラフは、ロシアは地中海で唯一保持してきたシリアの海軍基地の将来が、同国の内戦で不透明になったため、キプロスへの基地移転を狙っていると報じた。実際、サリス財務省がロシアに支援を請願していた交渉の中では、ロシア人が多く住むキプロスのリマソールにロシアの海軍基地を設置する計画も議論されたという。

EU支援策の妥結 
ロシアは独自に影響力維持を模索

 そして、結局、3月25日にEU、IMFとキプロスの間で支援策が妥結した。支援の条件はキプロス第2位のライキ銀行を直ちに破綻処理し、不良資産を切り離し、優良資産は最大手のキプロス銀行に移すと共に、10万ユーロ超の高額預金保持者に一定の損失負担を求める一方、10万ユーロ以下の預金は全額保護されるというものだ。さらに、国有資産の民営化、財政緊縮などによりキプロスは自力で合計58億ユーロを捻出することになる。

*過去記事では「ユーラシア同盟」と記したが、現在は一般的に「ユーラシア連合」という場合が多い。


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