2024年4月18日(木)

安保激変

2013年5月10日

 現在、ロシアはこれまで放置してきた北方領土の経済開発に力を入れ始めており、実効支配を強化している。2010年にはメドベージェフ大統領がロシアの大統領として初めて国後島を訪問し、その後も政治指導者による訪問が続いている。昨年7月には大規模な海軍演習を初めて択捉島で実施し、フランスから購入するミストラル級大型強襲揚陸艦2隻に加えて、対艦ミサイルを北方領土に配備する計画もある。そのような中で、ロシアは中韓にも北方領土の共同開発を呼びかける一方、日本との経済協力も模索している。

 ロシアが北方領土の実効支配を強化する背景には、中国の存在がある。極東ロシアの人口は少ないが、隣の中国から労働力が流入しつつある。これにともなって、ロシアでは極東地域における中国の影響力の拡大に懸念が高まっている。

 加えて、中国の北方海域での海洋進出にも警戒感が高まっている。2000年5月に中国海軍の情報収集監(砕氷艦)が津軽海峡を2日間かけて1往復半し、太平洋に抜けるという事例があった。2008年10月には、4隻の中国艦船が津軽海峡を通過して日本海から太平洋に抜けている。ロシア海軍はこの動きに衝撃を受けたと伝えられている。

 地球温暖化の影響で北極海の海氷が溶けていることも見逃せない要素である。北極海の海氷は急速に縮小しており、新たな航路の開通と莫大な海底資源の開発が期待されているため、ロシアは北極海における存在感を強化している。北極海を担当しているのはロシア北方艦隊であるが、今後は太平洋艦隊にも北極海のパトロールを支援することが求められるであろう。実際、すでに北極海航路を通航する中国船の数が増え始めている。その際、北方領土周辺海域はやはりロシア海軍にとって重要な航路となる。(北極海については別稿も参照されたい)

アジアにおける存在感の維持が課題

 他方、ロシアは老いゆく巨人である。原油価格の高騰により冷戦後に破綻状況にあった経済を立て直したが、それは産業競争力に裏づけられたものではない。ロシアは、BRICS諸国の中で2008年の国際金融危機から立ち直るのが最も遅かった。国民の平均寿命も短く、高齢化も進み、国力は今後も低下していくだろう。ロシアにとっては、国力が低下する中で、経済の成長センターとなったアジアにおける存在感を維持することが戦略上の最大の課題であろう。

 ロシアがアジアでの影響力を維持するためには、ソ連崩壊後の財政難でスクラップ状態にある太平洋艦隊を再建しなければならない。ロシアは2010年に6780億米ドル相当の防衛支出計画を発表したが、その4分の1が太平洋艦隊の再建に充てられる。2020年までにロシアは新型の攻撃原潜、弾道ミサイル原潜、フリゲート艦、空母等を20隻導入する予定である。


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