米ソ冷戦の終結後、21世紀になって中国の躍進にともない、米中の<第二次冷戦時代>が始まっている。この二大国の対立を、軍事、経済、政治さらにサイバー空間など、多角的なアスペクトから分析したのが本書である。
詳細に語られる近年の米中対立の具体的事例は、東南アジアにおける対外拡張政策とともに覇権主義的国家・中国の野心を明確にあらわしている。アジア太平洋を「舞台」とする米中の対立は、アメリカの同盟国である日本に、かつて経験したことのない重大な決断を迫りつつある。
<立ち読み>
あとがき
中国がこれまでの成長率を維持していったと仮定した場合、アメリカを追い越し世界一の経済大国となるのは、もはや時間の問題となりつつある。その時期について、中国の「人民日報」は「2049年」との中国科学アカデミーの予測を掲載する一方、米中央情報局(CIA)は最新予測として「2030年」との見通しを公表している。
しかし、そうした未来予測にもましてより重要な問いがある。それは、1世紀近くも世界に君臨してきたスーパー・パワー・アメリカが果たして唯々諾々として、世界一となる中国をそのまま容認できるかどうか、ということである。
筆者は、米中国交正常化(1979年)以来の両国関係について、3度のワシントン特派員、その後の東京本社をベースとした取材記者活動を通じ、30年近くにわたり、とくに注意深くフォーローしてきたつもりである。
その間の双方の複雑な外交駆け引き、国民感情の変化をアメリカ側からの「対中関係」という視点に立って振り返ると、関係強化を求める積極論と逆に慎重さを求める警戒論がそのときどきに応じて交錯し、揺れ動いてきたとの印象が強い。そしてこれは、共和党、民主党という、いずれの政権においても大同小異だった。
たとえば、79年当時のカーター民主党政権が米中関係促進に力を入れたたことは当然としても、81年以降、93年に至るまでのレーガン、ブッシュ共和党政権下でも、両国関係は総じて良好か“無風状態”が続いた。
次のクリントン民主党政権では、1期目(93‐97年)の滑り出しこそ、米中首脳会談で台湾における独立気運にクギを刺す一方、対中積極関与姿勢を鮮明に打ち出したが、途中、「96年台湾海峡危機」以来、中国を牽制する日米同盟関係再構築に乗り出すなど、関係はむしろ険悪化した。
2001年1月、誕生したブッシュ・ジュニア共和党政権下では、同年9月の「9・11テロ事件」以降しばらくの間、国際テロ対策などをめぐる共同歩調を通じ、再び対中「関与政策」論が一時浮上したこともあった。その後は、同政権が国際世論を押し切って強行した対イラク戦争等を契機として、両国関係は冷却化した。
では、世界最強の経済力と軍事力を誇るアメリカと、21世紀に入り日本を追い抜き世界第2位の経済大国となった中国の関係は、これまで同様、良好な時期と険悪な時期が交錯し場合によっては並立する、そんな時代が続くのだろうか。
本書のテーゼは、残念ながら、そうではない。今後20年先の米中関係を予測するとすれば、さまざまな理由から、世界ナンバー・ワンとナンバー・ツーの大国同士が、かつてのような緊密な協調関係を維持していくことはますます困難になりつつある。つまり、〈米中対立〉または〈米中対決〉の時代は不可避だとみる。
なぜか。
その理由を、両国の今日にいたるまでの歴史的発展過程、双方の地政学的な〈レゾン・デートル〉、そして相異なる世界観と価値観を含め、包括的に説明するのが本書の主な目的である。
――「あとがき」より
(続きは本書でお読み下さい)
<目次>
はじめに
第1章 米中対決の現場
・サイバー・ウォーの火花
・宇宙対決 ・南シナ海波高し
・インテリジェンス・ウォー
第2章 米中軍事対立の足跡
・対立の火種=台湾
・1996年台湾海峡危機
・中国の覚醒
・台湾併合に本腰
第3章 海に躍り出た中国
・歴史的戦略転換
・「海洋強国」の意味
・アフリカ諸国との関係強化
・A2/AD作戦の実態
第4章 身構えるアメリカ
・対中「関与政策」の清算
・対中包囲網の再構築
・加速する米軍再編
・揺れる経済界
第5章 価値観の衝突
・政治体制
・外交政策
・経済システムの落差
・アメリカン・ドリームvs.中華思想
第6章 ユーラシア同盟の悪夢
・中ロ関係の軌跡
・プーチンの野望
・中国の真意
・アメリカの悪夢
< 第7章 試される日本の覚悟
・中国の対日強
・アメリカの対日観の軌跡
・「オセアニア防衛戦略」の真偽
・日本の「価値」をいかに高めるか
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