2024年4月19日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2013年5月22日

 しかし現代のように中央銀行が長期にわたりマルチな政策目的の達成を目指すようになれば、その独立性は失われてゆくだろう。他方で政策決定者は、政策関与の枠組みの透明性とルールを確立しておく必要がある。経済にストレスがかかった状況下では、政府が中央銀行の判断を過剰に侵害しなければ、マルチな政策目標の立案と遂行が連繋されバランスが保たれてゆくだろう。

 好むと好まざるとに拘らず、政策立案者は中央銀行の独立性が弱まる事を受け入れなければならず、又、そこから生まれる結果について対応する準備をしなければならない、と論じています。

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 筆者のブレヘルは、シカゴ大学で経済学博士を取得し、ボストン大学で教鞭を取った後IMFに入り、2001年にはアルゼンチン中央銀行総裁に就任しています。この論説は、その学識と経験に裏打ちされたものと言えるでしょう。

 ブレヘルが根拠が失われていると指摘している二つの主張、すなわち、中央銀行に独立性がなければインフレの可能性を無視して景気対策を行うおそれがあること、および、中央銀行が持つ金融問題への対応についての相対的優位性を守るために独立性が認められるべしということは、中央銀行が物価安定という単一の目的を追求していた時代のものであり、中央銀行の独立性はその際の独特な発想だったと言えるかもしれません。

 もちろん、決して、中央銀行の意思決定が政治に従属すべきということではなく、政策立案者と中央銀行が目的を共有し、協調してバランスの取れた政策を実行する新たな時代になってきているということでしょう。

 あらゆる制度は進化を遂げます。中央銀行の制度が経済の複雑化に従って進化をするのも当然のことでしょう。そして、進化の際には、過去には重要であった原則を捨て去るべき場面があり、成長のために脱皮するということも、念頭に置いておく必要があります。とかく中央銀行の独立性には議論が有るところですが、政策目標がマルチになるにつれ、それが失われるのは自然である、とのブレヘルの意見は、傾聴に値します。日銀による今般のいわゆる「異次元の金融緩和」もこうした文脈に照らせば、必然性的なものと言うべきでしょう。

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