WEDGE REPORT

2013年6月5日

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児玉 博 (こだま・ひろし)

ジャーナリスト

1959年大分県生まれ。早稲田大学卒業。フリーランスジャーナリストとして、大手総合誌、ビジネス誌で活躍。著書に『日本株式会社の顧問弁護士 村瀬二郎の「二つの祖国」(文春新書)、近著に『テヘランからきた男 西田厚聰と東芝壊滅』(小学館)など。

 もちろん、飛び込みといっても、入念な調査をし、勝算があってのことである。相手の興味をそそり、食いつかせる“餌”であり“武器”を山田は隠し持って、相手の門を叩く。それが世界一のスパコンという称号だ。

 “世界一のスパコン”は山田の予想を遥かに超える効果があった。それはスパコン「京」の能力はもちろん、それを作り出す富士通の技術力に対する期待であった。

 山田が訪れたタイ科学技術省から持ち込まれた案件は山田らに新たなビジネスチャンスをもたらす。それは巨大工業団地で起きていた公害問題であった。

 「マプタプット工業団地」で起きている公害問題は、タイ政府が無視できないほど深刻な問題となっており、その解決を富士通の技術力に託そうというものだった。もちろん、その背後には日本が深刻な公害問題を克服したという経験、知見に対する期待も大きかった。

 公害の克服。現在の中国を見れば分かる通り、発展を遂げる新興国が必ず直面する問題である。

 山田が奇しくもタイで直面させられた公害問題の克服という難題こそ、サウジアラビアの商工省次官にして、MODON総裁のタウフィークが、チュニジアで再会した際に持ち出して来た富士通側への相談の1つでもあった。

 石油がもたらす富の国、サウジアラビア。しかし、同国の深刻な悩みの種もまた石油なのだ。石油はいつかは枯渇するからだ。サウジアラビア側の言葉の端々には、出来るだけ早くポスト石油時代の生きる術を見つけなければならないという焦燥感が滲んでいた。しかし、サウジアラビアからの信頼を得るまでには、さながらやる気を試されるような長い時間が必要だった。

 「富士通はなぜもっとこちらに来ないのか」 

 サウジアラビアのためだけに働けと言わんばかりの言葉が、度々投げられてきた。その度に山田のみならず、部下の白石直樹や渉外担当の松本学らが砂漠の地に足を運んだ。

 「今ではサウジにいるのが当たり前みたいな感じになってしまって」

湖のようになった工場排水。地下浸透の容量を越えてしまっている

 こう言う白石は風貌まで現地化したようにさえ見える。

 日本の感覚では考えられない広さの工業団地から出る工業排水などは、一応の処理がなされてはいるが、日本的な基準からすれば相当に処理レベルが低いものだ。しかも、地下浸透させるはずが、容量を超えて地表にあふれてしまい、巨大な汚水湖と呼べるほどの規模にまでなっているところさえある。

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