うつ病蔓延時代への処方箋

うつ病対策が不要な社会へ 自分を語り“有意味感”をもつ
ジャパンEAPシステムズ 松本桂樹副社長に聞く

海部隆太郎 (かいべ・りゅうたろう)  ジャーナリスト

日本工業新聞記者、IT企業の広報部長を経て、現在フリージャーナリストとして活躍。

うつ病蔓延時代への処方箋

うつ病対策が叫ばれているが、減少する兆しは見えない。うつ病蔓延の原因は不景気の影響や豊かさの中での愛情の欠如など、多様な背景があげられるが、定かではなく、証明できるものもない。こうした状況を踏まえ、うつ病患者の実態と対策、予防策について、あらゆる角度の専門家たちにインタビューする。

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 もう少し具体的にいえば、うつが社会的に注目されるようになったのは1998年ごろからです。この年は自殺者が前年より8,000人も増え3万人を超えました。バブルの崩壊などが原因と指摘されています。うつに悩む人はここから急速に拡大しています。自殺者急増というインパクトにより、早期発見の重要性が説かれ、軽症の方もより受診するようになりました。もちろん、啓発が成功したという側面が大きいと思いますが、病気が掘り起こされたという見方もできると思います。

 また、別な角度で思うのは、ITの進展でコミュニケーションの取り方が変わってきたことも、若年層にうつを増やす要因になっていると思います。学生時代からコミュニケーション手段にメールがあるのが当たり前として育ってきた若者は、分断されたメッセージの羅列で自分を表現することが多いといえます。自分を伝えるためには、もっと「自分語り」をしておくことが大事なのに、それを知らない状態で社会に入るので、うまくコミュニケーションが取れず、仕事でうつ状態に陥るようなことになっていると思います。

増える若年層の相談件数

 ――「自分語り」とは。

松本:ストーリー性を持って自分を説明することです。バラバラな出来事は語れません。語るということは、バラバラな出来事に連続性をもたらしてくれます。これは適応することにつながります。しかし、若者がそんな自分語りをすると「何、語ってんだよ!」と揶揄されてしまう。メールでは、自分の情報が小出しに相手に伝わることになります。ここにメール文化の最大の欠点があります。便利で顔を見る必要がなく、声も聞かないで済む。

 会社で上司とコミュニケーションがとれない理由は、自分を語れないことにも原因があります。上司は部下が何を考えているのかわからない、どのような生い立ちをしてきたのかも、自分を表現してくれないのですから、愛着も感じられなくなるのは当然でしょう。多くの職場でコミュニケーションの量が圧倒的に足りていないと感じます。メールの最後にPSとして、今日の出来事でも何でもいいので書き込むことで、温かみがでてくるものです、ここから自分語りにつながっていけば、相互理解が深まるのですが。

 ―― 臨床心理士として、カウンセリングを行っていると思いますが、ここ数年で面談に来る人の内容などに変化はありますか。

松本:以前は長時間労働による疲労などから、精神状態が不安定になってしまったという相談が多かったのですが、少し減っています。逆に増えているのが若年層に絡む相談です。正確なデータをもっていませんが、20歳代から30歳前半までの若年層の社員に関係する相談は、かなりの勢いで増加しています。内容としては適応不全、会社に溶け込めない、上司に付いていく自信がないなど。管理職からの相談でも、若年層の部下についてという内容が増えてきています。

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「うつ病蔓延時代への処方箋」

著者

海部隆太郎(かいべ・りゅうたろう)

ジャーナリスト

日本工業新聞記者、IT企業の広報部長を経て、現在フリージャーナリストとして活躍。

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