『人民日報』論文は新たな狼煙
潜水艦接続水域潜没航行の意味


小原凡司 (おはら・ぼんじ)  東京財団研究員・元駐中国防衛駐在官

1963年生まれ。85年防衛大学校卒業、98年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。IHS Jane’sを経て、13年1月より現職。

チャイナ・ウォッチャーの視点

めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリストや研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。(画像:Thinkstock)

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2013年5月8日付『人民日報』は一本の論文を掲載した。「釣魚島の返還のみならず、琉球問題も再び議論すべき」という刺激的なタイトルだ。作者は中国社会科学院近代史研究所所長まで務めて2004年に離任した張海鵬である。

 日本政府はすぐに反応した。翌日9日の記者会見で、菅義偉官房長官が「記事が中国政府の立場であるというのであれば、断固として受け入れられない」とコメントしたのだ。しかし、当該論文は、「中国の沖縄に対する領有権」自体は主張していない。

 そもそもこの論文は、沖縄に対する領有権を主張することが目的ではない。日本が“領有権の所在”について議論するのは、的外れかもしれない。この論文が公表された意味に注目すべきだろう。これは中国が上げた「新たな狼煙」かも知れないのだ。

尖閣問題の手詰まり感
範囲を東シナ海全体に広げる

中国は、少なくとも3月までは、日中関係改善に努力していたように見える。3月30日の習近平主席の側近である李小林・中国人民対外友好協会会長の訪日も、中国の日中関係改善に向けた努力の一環であったと言われる。

しかし、3月下旬から4月にかけて、中国の対日姿勢が変化を見せる。習近平主席にしてみれば、日本に足元を見られてまで中国側から働きかけることはできないということだ、という話を複数の中国側から聞いた。一方で、中国には尖閣諸島周辺での活動に手詰まり感がある。中国は、尖閣諸島周辺でとり得る行動はほぼ全てとっている。これ以上の行動は日本との軍事的衝突に発展しかねない。尖閣諸島周辺での行動はエスカレート出来ないということだ。それでも、対日強硬姿勢を示さなければならない。

 そこに当該論文が登場する。沖縄までも領有権問題に関わるとすることで、東シナ海全体における海軍等の活動に「領土問題に関する意志表示」という意味を持たせることが出来る。尖閣諸島周辺で行動をエスカレートさせるのではなく、範囲を東シナ海全体に広げることによって新たなエスカレーションを示すことを企図したと考えられるのだ。

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小原凡司(おはら・ぼんじ)

東京財団研究員・元駐中国防衛駐在官

1963年生まれ。85年防衛大学校卒業、98年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。IHS Jane’sを経て、13年1月より現職。

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