2024年4月26日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2013年6月21日

 ASEAN wayについては、日本では数多くの学問的著述もあるぐらい確立した概念ですが、要するにコンセンサスを重んじ、意見の異なる仲間に決して反論せず、まとまる範囲だけで合意に達するということです。これを、米国の評論などでは「決定できない機構」として、蔑視する風もありますが、ASEAN諸国の国民性に根ざしたものとも言えます。

 ラッド提案とナタレガワ提案の違いは、ヨーロッパの例で考えれば、NATOとCSCEの違いと言うことになるでしょう。

 CSCEは冷戦の真っ只中、NATO条約加盟国とワルシャワ条約加盟国全員を含む全欧州諸国(アルバニアを除く)が、欧州安全保障について共通の話題を話し合うために設立された機構であり、特別の政策決定能力はありませんでしたが、全欧協力の雰囲気作りには貢献したとされています。

 これに対して、かつて麻生外相が提案した「自由と繁栄の弧」、ラッド提案(ウィキリークスの解釈によれば)、ヒラリー・クリントンのアジア回帰は、中国という名は一言も言わないで、その意図するところは、実質的には中国包囲網です。つまりNATO的発想です。

 これを冷戦的発想として忌避するリベラル的発想は、中国を含めた全アジア、太平洋の対話を推進する立場となります。

 ヨーロッパの例では、二つの機構は、全然別のものであり、西欧諸国にとっては、NATOはそれぞれの国の安全保障にとって中心的存在であり、CSCEはそれを補足する外交的機関として、何の問題も無く共存しています。

 ところが、アジアでは、中国の脅威の特定が難しい環境において、この二つの考え方が、ヨーロッパのように、相補足するのでなく、対立する形となっているのが問題です。そして、中国の脅威に対するアメリカの認識さえも、オバマ第二期政権の下で腰が据わらない状況では、中国包囲網形成政策と対中対話促進政策が、欧州のように、それぞれ役割を分担して共存できず、むしろ対立概念としてその間で揺れ動くことは避けがたい状況となっているのです。

 ただ、東アジア全体としてはこういうジレンマの下にありますが、日本としては、西欧型で割り切ることが出来ますし、また、それが正しいやり方です。すなわち、日米同盟で日本の安全保障を守り、東アジアのバランスオブパワーを維持してその安定と平和を守ることが至上命題であり、それにプラスして、広汎な全地域対話を支持するということです。その優先順位を誤るようなことさえなければ良いのです。


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