科学で斬るスポーツ

2013年7月18日

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玉村 治 (たまむら・おさむ)

スポーツ科学ジャーナリスト、科学ジャーナリスト

小学校より野球をはじめ、大学では投手として活躍。スポーツを科学的に分析することを得意とし、バンクーバー、ロンドン五輪、ワールドカップサッカーなどで取材。

赤線は各区間の平均。青線は1000分の1秒単位の速度
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 ウサイン・ボルトでさえ、後半失速する。しかし、ボルトがすごいのは、トップスピードが極めて高いことと、失速が少ないことにある。だからレース後半、他の選手を置いて、加速するように見えるのである。ボルトが世界記録を更新した2009年のベルリン世界陸上のレースについて、ドイツ陸連が発表したデータがある。これによれば、ボルトがトップスピードに達したのは70m前後で、秒速12.35m(時速44.46㎞)。驚異的なのは50m過ぎにはすでに秒速12mを超え、ゴールまで12mを下回っていないことにある。3位に食い込んだアサファ・パウエル(ジャマイカ)も好タイムだったが、やはり終盤失速しているのがわかる。

 国立スポーツ科学センタースポーツ科学研究部の松尾彰文・副主任研究員は、「トップスピードが高い選手ほど、タイムはよい。このトップスピードを高め、それを維持することが10秒を切る秘訣の一つ」と強調する。

 松尾さんらは1991年の東京で行われた世界陸上以降の世界のメジャーレースを、ビデオカメラやレーザー方式のスピード計測装置を駆使して分析してきた。その結果、タイムとトップスピードが極めて高い相関関係にあることがわかってきた。

桐生が9秒台を出せる可能性は高い!

 では、桐生のトップスピードは9秒台に届くものだろうか。実は、届くのである。東京の世界陸上の100m決勝は9秒台が6人でたが、このうち2人のトップスピードは桐生のトップスピードより遅い。ともに秒速11m63。9秒91、9秒96を記録している。桐生にとっては勇気づけられる材料である。

 ただ、桐生の課題は、先ほども触れたが、終盤の失速。終盤の速度とトップスピードの差はできるだけ小さい方がいいが、桐生の場合、90mからの速度は、トップスピードより秒速1mも落ちた。ちなみに山縣のトップとの差は秒速0.81mだった。桐生の減速が、山縣並みに小さかったら10秒を切っていた。

 減速をできるだけ小さくするにはいくつか対策があるが、「一つはストライド(一歩当たりの歩幅)とピッチ(1秒当たりの歩数)のバランスを良くすることだ」と、松尾さんは、指摘する。

 ボルトらトップ選手は、スタートからピッチを増やし加速する。加速が進むと、ピッチを減らし、ストライドを増やして、トップスピードに達する。途中、ストライドを減らし、ピッチ数を上げ、最後はもう一度ストライドを伸ばしてゴールを駆け抜ける。ストライドが大きい状態は筋肉への負担が大きいため、いったんストライドを小さくして小休止し、最後はストライドを伸ばし、ゴールを駆け抜けると見られる。

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