合理性のない「理想の農業」は、
ただの趣味だ

ぼくたちは「有機野菜」じゃなくて「おもしろい野菜」を作りたい(3)


柳瀬 徹 (やなせ・とおる)  フリーランス編集者、ライター

1972年伊豆大島生まれ。企画・編集をした本に五十嵐泰正・他『みんなで決めた「安心」のかたち―ポスト3.11の「地産地消」をさがした柏の一年』、片岡剛士『アベノミクスのゆくえ』、久松達央『小さくて強い農業をつくる』、荻上チキ『災害支援手帖』、飯田泰之編『地域再生の失敗学』など。

有機農家対談 「ぼくたちの農業」

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若手農家二人による「ぼくたちの農業」対談の第3回。絶望からの再起の経験を通して見据える、理想と現実とは――。 
*前回までの記事はこちらから

マズいトマトを作りたい?

久松:ウチはもともと個人宅配が売り上げの9割で、それで十分に売れていたので、飲食店はあまり視野に入っていなかったんです。でも3.11以降、通販客の約3割が離れていってしまった。

 いろいろと悩んで、少し吹っ切れて、必死に飲食店に営業しました。するとすごく買ってくれる。彼らが喜んでくれるポイントは、「無農薬」や「有機」じゃないわけです。もちろん「美味しい」のは前提なんだけど、美味しさを作るプロセスに強い関心を示してくれる。

 とくに個人営業の飲食店の場合には「八百屋さんから買った北海道の有名農園の野菜」じゃなくて、「知り合いの小川さんが作っている野菜です。畑にも行ってきたんですよ」とお客さんに伝えられることが大事なんでしょうね。農家からの発信が、お店を介して最終的にお客さんの喜びになる。その流れのなかでは農家と飲食店にできることはたくさんあるから、そこは面白いですよね。別の方法でももちろんよくて、最後にお客さんの口にはいる時に価値になればいい。

小川:うちも3.11以降、飲食店さんへの出荷が増えました。飲食店にとっては放射能どうこうは関係なくて、たまに来てくれるお客さんを喜ばせることができることが大事なんですよね。柏の人でも毎日地元の野菜を食べるわけじゃないし、レストランにも毎日行くわけじゃない。レストランで出てくる柏の野菜にどうこう言う人はあまりいないので、飲食店から「柏だからダメだよ」言われたことはなかった。精神的にすごく救われました。

 飲食店さんへの売り上げは正直、そこまで多いわけじゃないんです。その売り上げだけで食べていくとすると、いったい何軒のお店と契約してもらわなければいけないのかって思いますけど、でも震災後に今までのお客さんがパーッと離れてしまって、気持ちのやりどころがないときに、レストランの人たちが「いいモノなら買うよ」と言ってくれたのにはすごく救われましたね。

 頑張るポイントが少し変わりましたよね。一般のお客さんはもちろん大事ですけど、飲食店さんたちが求めているものにも合わせて作りたい、と思うようになりました。昔はいろいろな野菜を作っていた時期があって、ものすごく効率は悪いからやめていたんですけど……復活しちゃいましたね(笑)。

左・小川幸夫さん 右・久松達央さん
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「有機農家対談 「ぼくたちの農業」」

著者

柳瀬 徹(やなせ・とおる)

フリーランス編集者、ライター

1972年伊豆大島生まれ。企画・編集をした本に五十嵐泰正・他『みんなで決めた「安心」のかたち―ポスト3.11の「地産地消」をさがした柏の一年』、片岡剛士『アベノミクスのゆくえ』、久松達央『小さくて強い農業をつくる』、荻上チキ『災害支援手帖』、飯田泰之編『地域再生の失敗学』など。

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