安保激変

2013年8月14日

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辰巳由紀 (たつみ・ゆき)

スティムソン・センター日本部長

キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。東京生まれ。国際基督教大学卒業後、ジョンズ・ホプキンス高等国際問題研究大学院で修士号取得。在米日本大使館専門調査員、戦略国際問題研究所(CSIS)研究員などを経て2008年より現職。2012年よりキヤノングローバル戦略研究所主任研究員を兼任。専門は日本の防衛政策、日本の国内政治、日米安全保障関係、米国の対アジア安全保障政策。

 第二期オバマ政権が発足してから半年が経過し、オバマ政権の外交・安全保障政策の優先課題が見えてきた。端的に言えば、第二期オバマ政権の外交・安保政策は「長期的にはアジア太平洋回帰を維持したいと思いつつ、短期的にはより事態が切迫している中東情勢にかなりのエネルギーを振り向けざるを得ず、そのバランスをどう取って行くのかに悩む」ものになるのだろう。

「アジア太平洋回帰」の主導役は誰?

 「アジア太平洋地域への回帰」はそもそも、第一期オバマ政権時に、大統領の後押しを得たクリントン前国務長官がその牽引役となって進めた政策だ。しかし、昨年1月に国防省が発表した「国防戦略の指針」で「中東とアジア太平洋を二大優先地域にする」ことが明言され、その後も「太平洋軍の展開地域における能力の増強」「国防予算削減の際も、アジア太平洋回帰に資する能力への投資などについては最優先で保護」などの方針が相次いで国防省から打ち出されたことで、「アジア太平洋回帰」の主役は国防省・米軍であるというイメージがアジア太平洋地域の米国の同盟国・友好国の間で流布していた。

 しかし、今年に入ってから連邦予算の強制削減措置が発動され、国防省はヘーゲル新国防長官が就任後、「不確定な予算環境」を前提にした「戦略的選択及び管理見直し(SCMR)」のプロセスを立ち上げた。さらに、7月には、背広組を対象にした「週一日レイオフ(furlough)」制度が始まった。この影響を受け、国防省では海外出張の制限・国際会議の中止・演習の規模縮小・延期・中止など、同盟国との活動に様々な制約が出始めた。

 SCMRは7月31日にその結果が米連邦議会に報告され、ヘーゲル国防長官がそれにあわせて記者会見を行った。その中でヘーゲル国防長官は「予算の強制削減が来年度も続いた場合、我々は今後数年間にわたり訓練・整備・最新鋭の兵器のどれもがかけている、態勢が整っていない軍を展開させるリスクを冒すことになる」と述べ、議会に対して2011年予算制限法の代替となる法律を早く成立させるように強く促した。これらのことから、「アジア太平洋回帰」の主役のイメージがもたれていた国防省にそのような余裕があるのかどうかを疑問視する声が出始めたのだ。

 この状況に呼応するかのように、オバマ政権は「アジア太平洋回帰」について「政府全体のイニシアチブだ」「軍事的要素はそのうちのほんの一部に過ぎない」「主力はむしろ軍事以外の側面、すなわち、経済や外交などにある」というメッセージを強く打ち出すようになった。しかし、「外交」の最前線である国務省では、ケリー国務長官の下で新体制が発足してからというもの、長官が力を入れたいのは中東問題であることがすぐに明らかになった。この傾向は、ケリー国務長官の熱心なシャトル外交もあり、第一期オバマ政権時には膠着状態だったイスラエル・パレスチナ間の中東和平交渉に再開の道筋が見えてきて以来、一層顕著になった。このため「第二期オバマ政権では、誰が『アジア太平洋回帰』を牽引するのか?」という疑問が消えなかったのだ。

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