2024年4月24日(水)

経済の常識 VS 政策の非常識

2013年8月16日

 M&Aは年7~8兆円ペースになっている。食品、製薬、小売、鉱業、通信等の巨額買収もあったが、一番大きいのは金融機関だ。リーマンショックで苦境に陥ったアメリカの金融機関を安く買えたと思ったら、高値でつかんだということだった。野村証券は、破綻したリーマン・ブラザーズ証券の欧州部門他を買収し、職員にそれまでの報酬を保障して人材の流出を防いだ。しかし、その後の欧州経済危機もあり、多額の人件費に見合う利益を上げることはできなかった(「野村HD:来月にも、追加リストラ策 欧州縮小など検討」毎日新聞2012年8月5日朝刊、などによる)。

 日本企業による、最近の主な海外企業の買収案件は、ソフトバンクのスプリント(米通信)買収(1.6兆円)だが、結果が成功するかしないかは、もちろん、まだ分からない。過去、結果の分かったものについても包括的な調査が必要だと思うが、そのようなものはあまりないようだ。

 東京工業大学の井上光太郎教授のグループが行った研究によると、海外M&Aを行った企業の株価は、一般株価に比べて買収3日後に2.15%上昇するが、3年後には17.69%下落するという。ただし、数千あるM&Aに対して主要なもの81件しか調べていない(「検証:日本企業はクロスボーダーM&Aが本当に不得意なのか」『一橋ビジネスレビュー』2013年SPR)。

 買収をするときには大きな話題になる。確かに、何千億、1兆円を超えるような買収をすると聞けば誰もが驚くから、マスコミも熱心に報道する。だが、世間はすぐに忘れてしまう。もちろん、それが大きな失敗になれば、マスコミに面白可笑しく書かれることになる。

 しかし、肝心なのは失敗か成功か一概には分からないものだ。大部分のものはそのようなものに違いない。それにしては失敗のスキャンダル的な報道が多いように思うので、本当に失敗例が多いのかもしれないが、それを確認するためにも金額が一定以上のすべての事例を観察すべきだ。全体がどうなっているかを知り、教訓を得ることが、成功の確率を高めることになるはずだからだ。

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