2024年4月26日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2013年9月6日

 もう一つの難題は、艦載機関連システムであった。システム主任設計師の王治国は、艦載機運用システムに関する作業を担当したが、80年かかる作業を10年で成し遂げたと言う。誇張はあるにしても、これで問題が解決できたのだろうか?

 彼は、「航空機に関する問題が一万以上存在した」と述べている。それぞれの設備の取付け位置がどこなのか、どのように設置するのか、設計図もなしに、ボルトの跡や配管の穴などを見ながら作業を進めたのだ。これでは、巨大なパズルを解くようなものだ。果たして正確に解けたのだろうか?

 更に、艦載機の本格運用にもまだまだ時間がかかりそうだ。公開された映像を見る限り、J-15が極めてスムーズに着艦している。しかし、これはおかしいのだ。その様子は陸上飛行場への着陸のようで、これでは動揺を伴う外洋で着艦することは難しい。着艦と着陸は異なるのだ。中国海軍は艦載航空機の運用をまだ体得していないように見える。

「空母戦」は「見せっこ」

 問題を多く抱える「遼寧」だが、そのこと自体は重要ではないのかもしれない。空母は日本との戦争に用いられないからだ。「遼寧」が練習艦だからというだけではない。中国が更に空母を建造しても、それは、却って日米同盟と衝突する気がないことを示すものだ。

 中国は空母運用を追及しても米海軍に追いつけない。日米同盟と戦争を考えるなら、潜水艦を増強すべきなのだ。空母の建造及び運用には莫大な費用がかかる。中国とて空母と潜水艦を同時に追求するのは困難だ。既に、中国の国防費も無限ではないことがわかっている。中国空軍内に不満があるが、海軍に予算が多く配分されることがその一因だろう。中央軍事委員会副主席への空軍の抜擢も、空軍を抑えるためだとも言われる。

 「空母戦」は決して空母戦闘群の衝突を意味する訳ではない。言うならば「見せっこ」だ。しかし、空母は国家の影響力を世界中に投射出来る兵力である。日中間で実際の戦闘に使用されなくとも、その保有には目的があるのだ。

 中国海軍が「遼寧」改造を通じて学んだことは、国産空母建造に大いに役立つ。中国海軍は、通常動力型空母の次に、原子力空母の自主建造を目標にしているという報道もある。しかし、中国の空母建造には、多くの難問が立ちはだかるだろう。

 一方の「いずも」は、これまでの汎用護衛艦とは異なる艦艇である。「ひゅうが」から始まった運用思想の変化は、明確になりつつある。しかし、新しい艦艇運用を自らのものとする努力は始まったばかりだ。

 日中双方とも、真の「空母戦」は国内に在るのかも知れない。

[特集]中国軍事力の実像と虚像


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