2024年4月23日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2013年9月24日

 安倍総理が目指す変化は、日本を軍事大国にしたり、右傾化したりするものではなく、今日のアジアにおいて日本を守るために必要不可欠なものである。第二次大戦終結から70年近く経ち、また、安全保障環境が悪化しているにもかかわらず、安倍総理が目指している変化が、日本の大戦略の面から言えば根本的なものではないのは、印象的である。日本の軍隊は、防衛的であり続けるであろう。悲しむべきは、安倍総理の個人的な歴史観によって、日本の軍隊の復活という物語が、国際的なニュースの見出しを席巻し続けることである、と論じています。

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 ホーナンは、これまでも東アジアの問題についてバランスの取れた論調を展開してきた人物です。この論説も、安倍総理が目指す安保政策を、日本が置かれている安全保障環境からすれば当然であると擁護するなど、日本にとって有り難い内容です。

 しかし、同時に、安倍総理の歴史認識が、本人が封印しているにもかかわらず、日本の防衛強化にどうしても影を落としてしまう現実も示しています。そうであれば、安倍総理の歴史認識に焦点が当てられないようにする他はありません。そのためには、未来志向を強調するべきでしょう。日本の防衛強化についても、同盟国、友好国とともに自由と民主主義の価値を守る、ということを前面に出すのが良いと思います。また、ホーナンのような日本に好意的な論者が、河野談話、村山談話の維持を評価していることを考えれば、両者の見直しが今はその時機にないと言ってよいでしょう。

 ただ、国家の大戦略としては、如何なる国家も、自らの歴史と伝統を否定しては生きていけません。靖国の参拝も、慰安婦問題など一時の自虐史観でゆがめられた過去の歴史の修正も、日本という国家の将来のためには、何時かは必要です。それを何時実施するかは、戦略論ではなく、戦術論の問題です。

 日本が防衛力を増強し、集団的自衛権の行使を認めることは、東アジアの軍事バランスにおいて、中国に不利に働くことは明らかですが、それは、日米同盟にとって有益であるので、米国もそれに賛成であり、中国には介入する余地がほとんどありません。中国側が有する唯一の手段は、これを日本の右傾化の一部と捉え、米国内のリベラル的思考に訴えることです。これが、現在中国が実際に行っていることです。

 これに対する対応策は、まず、日米同盟を揺るぎないものとして、米国にとって日本が不可欠であるような関係を作り出すことです。小泉政権下でのブッシュ政権との間の緊密な日米関係は、よい手本となるでしょう。日本の国益としては、まず、集団的自衛権の行使を認め、離島防衛などの態勢を固め、そしてペルシャ湾に至る海上交通路を日米共同で防衛する態勢を作ることが先決です。こうして、安全保障における日米関係を万全なものとすれば、あとは純粋に国内問題である靖国参拝などは、中韓など一部に不満は残っても、実行しても何の障害もないでしょう。それまでの隠忍自重が必要なだけのことです。
 

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